PrinceV
□囁いてよ
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いつも俺のことを越前くんとしか呼ばないから、たまには名前で呼ばせたくなった。ただそれだけなのに。
「やだ!」
言っておくが友達ではなく、俺の彼女である。それなのにこんなにはっきりと断られると思わないじゃん。そもそも俺はあんたのことを名前で言ってるんだけど。
「何で嫌なわけ?」
「嫌だから嫌なの!」
会話になってないんだけど。まるで子どもみたいな言い訳。それでも言われる方は傷付くを通り越して少しカチンとくる。
「名無しさん、理由を言ってよ」
なるべく冷静に話したつもりだけど、名無しさんが怒った?と不安な表情で恐る恐る聞いてきた。じゃあそれなら怒っていると思わせようか。
「別に」
「…怒ってるじゃん」
名無しさんが泣きそうな声を出し始めた。既にやり過ぎたかなと反省しつつも顔には出さずにポーカーフェースを貫いたまま、何も話さない。そのおかげで俺たちの間には微妙に張り詰めた空気が流れた。
「リョーマ……くん、」
名無しさんが本当に小さく発した俺の名前。本当は呼び捨てが良かったけど今はいいや。顔が真っ赤で泣きそうな名無しさんが見えたから。
囁いてよ
(君だけの特別なんだから)
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