PrinceV
□不等価交換
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夏休みの宿題が最終日まで残ることは学生の夏の終わりの風物詩。夏休み中、何やっていたんだろうと後悔しても遅い。何もしていないからこんな状況になったのだ。
「まだまだだね」
隣で麦茶の入ったグラスをカランと鳴らしてあの口癖を呟いたのは言うまでもなく越前リョーマ。今私は彼の部屋で夏の終わりの風物詩の真っ最中。
「そういうリョーマさんは終わったんですかー?古典やったの?」
「やらない」
さすがと言えばいいのか何なのか。まさかやらないという答えが返ってくるなんて。学生の本業は何だと思っているんだろう。テニスじゃないよ、勉強だよ。
「名無しさんはあと何が残ってんの」
私の夏休みの宿題はあとは苦手な英語が半分くらい。今年はもう終わる見込みがついた。
「あんたって英語苦手だっけ?」
その言葉に強く頷く。苦手だからこそ最後まで残ったのだ。もしかして教えてくれるとかそういうのかな。
「それで古典は得意だっけ?」
得意ってわけじゃないけど出来る方、と曖昧に答えるとリョーマがスッと立ち上がって自分の机に向かう。あれ、何だかすごく嫌な予感しかしないんだけど。
隣に戻ってきた彼が私に差し出したのは古典の宿題。うん、何となく読めてた。黙ってそのページをパラパラと捲ると書いたあとなんてない。
「あの、リョーマさん?」
何、と面倒くさそうに返事をしながら私が途中までやった英語の宿題をスラスラとやり始めている。つまり私が言いたいことは宿題の量が違うってこと。
「また最初からじゃん!私、英語を自分でやるから…っ」
「ん、終わった」
古典はリョーマがやってよ!と言おうとした。だけど彼がかぶせてきて、しかも終わったと。英語をバッと奪うと確かに終わってる。当たっているのかは分からないけど、きっとリョーマのことだからわざと間違えたりなんてしないだろう。彼が私の宿題をやった。そのことは事実になった。
「じゃあよろしく」
ニヤリとあざ笑われて私はまだ全く手をつけていない古典をやり始めた。
不等価交換
(こんなのありですか)
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