リョーマと付き合って一体どれくらい経つんだろう。中学生だった私たちは高等部に進級していた。高等部に入っても越前リョーマの人気は今もなお健在。大半の人はリョーマと付き合っていることを認めてくれたのだが、彼女である私への妬みは今だにある。今日だって昼休みに屋上に呼び出された。
「リョーマくんと別れて」
何度この台詞を聞いただろう。普通の人には経験しないことを何度も経験してきた。それでも別れないのはリョーマが好きで、リョーマも私が好きだから。だからこんな妬みは基本的に無視。だけど今日の昼休みはいつもと違った。
「ねぇ、いつまでもリョーマくんがあんたのことを好きでいると思っているの?」
グサリと胸を突いた言葉。そんなことを言われたことがなかった。いつまで?ずっとだよ。でもそれは私の気持ちであってリョーマの気持ちではない。
「私見たんだけど、リョーマくんが桜乃ちゃんと仲良く話してたよ」
それだけ言ってその子は屋上から去って行った。もう何で痛いところ突くのかな。中学生の時桜乃ちゃんがリョーマのことを好きだって知ってる。でもまさかまだ好きなのかな。考えても分からないと空を仰ぐ。
「教室に帰ろう…」
ひとつ溜め息を吐いて私は屋上を後にして階段をゆっくり下りる。リョーマに私が相応しいかなんて中学生の時、嫌になるほど考えた。それでも好きだから離れたくなくて微々たるながら努力はしてきたつもり。少しでも自信が持てるように。
一年生の教室がある階の廊下を教室に向かって歩く。そんな時、まるで私の心をえぐるかの様な光景が目に飛び込んできた。…リョーマと桜乃ちゃんが廊下で話していた。それが仲の良さそうな光景か分からないけど、必要以上に他人とコミュニケーションを取らない彼の場合は仲がいいと捉えていいと思う。
どうしても教室に帰りたくなくて私の足は屋上へ向けられる。途中で授業開始のチャイムが鳴った。そんなことを気にも止めず、屋上の真ん中に座り込む。
さっきの光景は本当は普通のことだって分かっている。桜乃ちゃんがリョーマに話しかけているところなんか何度も見たことがあるわけで。でもさっきのはあの子に言われた直後だったから。
「私って性格悪い…」
「…そんなことないと思うけど」
独り言のはずなのに。誰かに言葉を掬われた。いや、誰かじゃない。私のよく知っている人。
「リョーマ…」
「珍しいね。あんたが1人でサボるなんて」
教室にいないから来た、と私の隣にリョーマが当たり前のように寝転んだ。きてくれて嬉しいのに私の心の中はさっきの光景がぐるぐる回っている。
「桜乃ちゃんは?」
気づいた時はそう吐いていた。私は一体リョーマに何を言いたいんだろう。何で竜崎が出てくるの、とリョーマが不思議そうに身体を起こした。
「さっき俺が竜崎と話していたから?それともまだ誰かにそんなこと言われんの?」
両手を掴まれて顔を覗かれる。リョーマに心配させて自分の心の狭さが嫌になって涙がこみ上げてくる。涙で濡れた顔を隠してくてもリョーマが両手を離してくれないから隠せない。ちゃんと言って、とリョーマが言う。
「リョーマはいつまで私のこと好きでいてくれる?」
我ながらバカな質問だと思う。まさかこの時までなんて特定の日を出すとは思わないし、はたまたずっとなんて曖昧な答えを求めているわけでもない。だったら私は彼に何と言ってほしいのか。
「名無しさんが俺をすごく嫌いになったら考える」
「リョーマを嫌いになる時なんか、ずっとこないよ…っ」
嗚咽混じりに言えば優しく抱き寄せられた。全身を包まれて私の身体からもリョーマの匂い。さっきまでの不安がどんどん薄れて心が軽くなっていくのが分かる。
「まだ誰かに言われんの?」
「別にいいの。リョーマと付き合っているんだもん。少しは不安な気持ちを持っておかないと」
その度に泣かれたら困るんだけど、とリョーマが大袈裟に溜め息を吐いた。彼の腕の中でクスクス笑うと身体を少し離されて甘いキスが降ってくる。たくさん不安になってその度に彼からの愛情の大きさを知る。普通の人には経験出来ないことを私は出来るなんて幸運だと思う。
エキセントリック
(普通とは違う、それが幸せ)
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