PrinceV

□ドロップ
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正当なくじ引きでたまたま隣になって、今日彼が教科書を忘れたから机と机の間に置いて見せてあげただけなのに。何でこんな目に合わなければいけないんだろう。





「越前くんにいい顔しないで」


元来、人とのコミュニケーションが苦手な私はまさに恐怖としか言いようがない。私よりはるかに可愛くて制服の着こなしも気合いが入っている彼女たちにそんなことを言われる日がくるなんて夢にも思っていなかった。囲うように立たれて私の逃げ場はない。ただただ頷くことしかできなかった。少しして彼女たちは満足したのか、この場を離れて行った。ああもう、心臓が止まるかと思った。





「私が一体何をしたの…」


今日の放課後にでも先生に席替えを希望しに行こうかな。昨日したばかりだから多分無理だけど。3ヶ月は変えないぞーって言っていた気がするし。それじゃあ私は3ヶ月間ずーっとこういう目に合わなきゃならないの?学校側の新しいいじめと受け取ってもいいよね。なんてアホなことを考えて溜め息をひとつ。





「すごい溜め息」


誰もいるはずがないと思っていたのに後ろの方から声がした。そこには私が文句を言われる原因の人。私は彼におかげさまで、と嫌味をたっぷり含めて返す。





「あまり関わらないようにして」


嫌味を言ったついでに言っておこう。自分の身を守らなきゃいけないんだもん。今日は言葉だけだったけどどうなるか分からない。





「やだ」


「え?」


私の耳が正しければ今越前くんはやだって言った?それとも単なる聞き間違い?そんな考えもつかの間、彼はまた同じ言葉を言った。ああ、聞き間違えじゃなかったんだってそんな呑気なことを思っている場合じゃない。





「どうして?」


まさか新しいいじめだったりして。越前くんと女の子たちがグルになって…ってそれはないよね。分からなくて頭の中がグルグルしていると越前くんがニヤリと笑った。





「あんたの眼中に俺が入るように」


いつもよポーカーフェースに戻り、意味のあるような真剣な顔つきで話す。ゆらゆらと揺れている瞳に飲み込まれそうで何となく怖い。それを分かっているのか私から目を離そうとしない彼がずるい。







ドロップ
(何かが落ちた音がした)





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