PrinceV

□ひとりじめ
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学園中と言っても過言ではないくらい、今日は特別な日。だから一刻も早く景吾に会いたいのに。昼休みになって探しても探しても見つからないし、そもそも氷帝が広すぎて全部見れてないんだけど。それは多分他の女の子たちも同じで。女の子たちは綺麗にラッピングされたものを持っている。一方私は手ぶら。自分の手を見て溜め息を吐いていると、カチッと放送がなる音がした。






「雨宮名無しさん、生徒会室に来い」



きゃー!と学園中に湧き上がる悲鳴のような黄色い歓声。今日初めての景吾の存在確認。そんな彼が呼んだのは私の名前。どう頑張っても嬉しすぎて頬が緩む。あ、そんな場合じゃなかった。生徒会室のほうへ向かうと途中で動けなくなってしまった。そこにはプレゼントを片手にした女の子たちが生徒会室の前に押し寄せていた。学園中に響き渡る放送で私を生徒会室に呼び出したんだもん。やっぱりこうなるよね。




「雨宮、こっちだ」


生徒会室に近づけない私の肩を叩いてそう言ってきたのは宍戸くん。訳が分からないまま、彼に連れられて生徒会室を後にする。宍戸くんの話によると、生徒会室にはジローちゃんが鍵を掛けて寝てるらしい。なるほど、と納得していると着いた先は男子テニス部の部室。





「跡部、連れてきたぜ」


ドアを開けると大きなソファーに座っている景吾。じゃあ俺は帰るから、と宍戸くんが部室から去っていった。普通のことをしているのに爽やか。





「昼休みまで会えなくて悪かったな」


「平気だよ。ちゃんと会えたから」



景吾が自分の隣をポンポンと叩くのを合図に私は彼の隣に座った。距離をあけないようにピッタリと。そうすれば景吾が抱き寄せてくれるからもっと距離がなくなる。





「景吾?」


「アーン?」


「誕生日おめでとう」



今日ずっと言いたかった言葉をようやく言えた。それだけ言いたかったのに昼休みまで会えなかったなんて私はすごい人が恋人だ。






「誕生日プレゼントだけど、景吾はたくさんの人から貰うと思うからケーキを作ろうと思って」



作ってから景吾のところに届けようと思ったの、とそう言ってからハッとした。今日の景吾はとても忙しいんじゃないかなって。パーティーとか私の知らない世界で。あーあ、間違えてしまった。





「じゃあ行くか」


そう言った景吾が携帯で車を頼む、と告げていた。まだ会ったばかりなのに…。





「…どこか行っちゃうの?」


自分でも分かるくらい私の声は今にも泣きそう。そんな私をジッと見たあと彼が大袈裟に笑った。




「お前の家に寄ってケーキの材料持ってきて俺の家で作ってもらうんだよ」


「景吾、夜にパーティーとかないの?」


「アーン?そんなの全部断ったに決まってんだろ。今日は名無しさんといるんだからな」



その言葉に今度は本格的に目頭が熱くなった。景吾の誕生日なのに私がこんなに幸せな気持ちになっていいのかな。








ひとりじめ
(すごくすごく特別な日に)




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