珍しく起きている隣の席の仁王と話していると、甘いお菓子の香りとともに派手な赤髪が現れた。片手にはいつものようにお菓子。
「やる」
突き出した手の中には私の好きなチョコレートのお菓子。それは私だけではなくてブン太も好きなはずなのに。やるって言ったよね?あのブン太が?まさかね。
「いらねぇのか?」
首を傾げながら聞くところを見ると、どうやらそれはちゃんと現実だったらしい。ブン太がお菓子をくれる日がくるなんて。人生何があるか分からないよね。
「あとで倍返しとか言わないよね?」
「言わねぇよ。ほら、素直にもらえ」
うわあ、本当にくれた。私はすぐにチョコレートの包み紙を開けて口に運ぶ。ふわりと広がる甘さと香り。やっぱり美味しい。
「お前にしかあげてねぇんだからな!」
彼は赤髪と同じくらい顔を赤くしてそう言って逃げるように離れていった。私はぽかんと口を開けたまま隣にいた仁王をチラリと見る。気づいてやんしゃい、彼は一言だけそう呟いた。
一粒チョコレート
(私は彼の特別らしい)
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