PrinceV

□顔をあげて
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中学生になったら何かが分かると思っていた。だけど人生は私が思っているより甘くなくて。自然と友達が出来るわけでもなく、私の人見知りが直るわけでもなかった。だからなるべく目立たないように過ごして来たつもりだし、それが得策だと思っていた。





「ねぇ、」


学校に来ても業務的な意味以外でのクラスメイトと会話なんて皆無と言っても過言ではない。だから少し話し掛けられただけで肩がビクリと動く。それでも女の子の高い声で言われればまだマシだったのに。




「あんたに言ってんだけど」


あんた、と指を差した方向は紛れもなく私で、指を差してきたのはあの越前リョーマくん。彼は愛嬌があるわけでも特別にコミュニケーションが得意ってわけでもないのに人がわらわらと集まってくる存在。すごいと心の底から思うし羨ましくも思う。そんな彼が今私に話し掛けている。




「な、に?」


元来人見知りで誰かと話すことが苦手な私は越前くんの顔を見てもいないのに、声が明らかに震えていた。我ながら情けない。だけど越前くんは気にしていないのか話を続けた。






「あんたは人と関わるの苦手?」


苦手。誰がどう見ても苦手。私はその質問に俯いたままコクコクと頷いた。情けないと思うかな、変な奴だと思うかな。どう思われたかなとどんどん考えがネガティブになる。だけど越前くんはふーん、と言っただけ。






「少しずつでも顔上げてみれば」


そんな性格じゃ駄目だよ。そんなことは今までいろいろな人に多々言われてきた。しかし改善できず、その度に自分自身が嫌になってますます卑下してきた。そんな中で越前くんの言葉は励ましとか同情とかとは違い、スッと心の中に入ってきたみたい。彼以外の人に同じことを言われても同じ気持ちになったか分からないが、その言葉を受け入れて実行してみれば少しずつ世界が変わる気がする。








顔をあげて
(ゆっくりと変わればいい)




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