PrinceV

□プリンシパル ハニー
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プロになれたことを1番喜んでくれたのは名無しさんだったと思う。名無しさんとは幼なじみなだけであって別に付き合っているわけじゃない。でもお互い何も言わずに隣にいたからこのままでいいと思っていた。だから俺は彼女に大切なことを伝えないまま、アメリカへ渡った。





アメリカでの生活もプロとしての成績も安定して俺は日本に一時帰国。日本に用があるのは名無しさんだけ。空港で待ち伏せていたマスコミを払い除けてずっと掛けていなかった彼女へ電話した。





「…リョーマ?」


「うん、俺。今日本に帰ってきたんだけどどっかで会えない?」


「じゃあストリートテニス場にしよ」


了解、と電話を切って違和感。喜んでいる様子でも嬉しがっている様子でもないから。何となく嫌な予感がしたけど、たぶん思い違いだろう。思い違いだと願いたい。





ストリートテニス場に着いたとき、名無しさんはもうそこにいた。街灯から遠く離れたベンチに座っていた。彼女は雰囲気も髪型も違っていて離れていた時間の長さを改めて感じてしまう。






「ごめん、待った?」


大丈夫、と笑ったその笑顔は昔と同じじゃない。俺の中で違和感がどんどん現実になっていく。それを止めたくて慌てて話し出した。





「あのさ、」


「私ね、結婚するんだ」


俺の話に被せて彼女はそう言ったから違和感は現実になってしまった。持ち前のポーカーフェースを保っているつもりで彼女の顔を見ると、俯いて下唇を噛んでいた表情と一緒に左手の薬指に光るものを見つけた。






「幸せなわけ?」


「微妙かな。彼はいい人すぎる。でももう決めちゃった」


ふーん、としか返しようがないと言うより言葉が出ない。そりゃ結婚しててもおかしくない年齢だし、何年間も連絡を取っていなかったらそうなっていても文句は言えない。そもそも名無しさんが俺の彼女だったことはないんだから。





「リョーマが遅いからだよ」


その言葉がグサリと胸に刺さる。遅かったんだ、何もかも。だから他の奴に取られてしまった。テニスバカ、と昔名無しさんに笑われたのを思い出す。





「俺がアメリカに行く前に言ってたら違ってた?」


「当たり前でしょ。まあ、言わなかった私も悪いんだけどね」



考え方が甘かったね、と彼女がゆっくりと溜め息を吐いた。俺も同じように溜め息を吐く。そんなことをしても今は何も変わらない。だけどそれじゃ嫌だと思うのは俺のわがままだと言うのならそれでもいい。だったらわがままついでにもう一つ。





「…花嫁を奪うって賛成する?」







プリンシパル ハニー
(彼女は何て返事をする?)



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