PrinceV
□濃艶な一滴
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ずっとずっと越前くんは恋愛面において全く興味ない人なんだと思っていた。何組のなんとかさんが越前くんのこと好きなんだって!という噂はもう日常茶飯事に流れている。そのなんとかさんに当てはまるのは学年で1番可愛い子だったときもあれば、真面目な子だったときもある。それに私だったりするときもある。
どこから漏れたのか私が越前くんを好きだという噂が流れてしまった。いや、噂ではなくて事実なんだけど。誰だかは分からないが絶対言わないよ!の言葉を信じた私がばかだったのかもしれない。越前くんを好きな人なんかこの学年に何人いるんだろう。もしかしたら学年だけではないのかもしれない。その中に小さなひとしずくが落ちたと思おう。そのひとしずくはすぐにみんなの中に溶け込んであるのかないのか分からなくなってしまうんだから。
「ねぇ、あんた。俺のこと好きなの?」
それはあまりに突然で。一瞬何が起きたのか分からなくて、これが夢なのか現実なのかさえ区別がつかないくらい。だけどわたしの手首を掴んでいる越前くんの温もりが現実だと物語っていた。
「返事ぐらいしなよ」
その言葉にハッとする。慌てて口を開いてみてもただパクパクと動くだけ。何で、何で超えが出ないんだろう。
「あんたが俺のこと好きだっていう噂が流れてるんだけど」
本当?の言葉に私は俯いて頷いてしまった。待って、これって越前くんに告白したってことになるのかな。友達のラインにも立っていないし、そもそも私のことを知っているのかな。今からやっぱり違うと言えばせめて友達のラインには立てるだろうか。言おう!と顔を上げたけど、あれ?
「他の噂は興味ないけど、あんたが俺のこと好きだって聞いて結構嬉しいんだよね」
「な、何で?」
「俺も名無しさんのことが好きだから」
もう目の前の彼に何から聞いたらいいか分からない。何で私の名前を知っているのか、何で私のことを好きになったのか、何で腕を掴んでいる手を恋人つなぎに変えたのか。
「好きだよ、名無しさん」
そんなことを言われたからもうどうでもよくなってしまった。誤魔化すのはやめよう。
濃艶な一滴
(混ざらないものだってあった)
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