PrinceV

□本能的に
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あーあ、また言われちゃった、似合ってないよって。そんなこと言われなくても分かってるよって言えたらいいのに。どう頑張ってもそんな勇気は持ち合わせていない。ふうっと溜め息を吐いてリョーマくんを待つために教室に戻る。




付き合い始めた頃はそれは大変だった。注目や冷やかしは時間と共に落ち着いたけど、未だ一部の女の子からの批判は多い。さっきのように彼が部活中が特に。嫌でも考えるのはこれからのこと。女の子たちが言うようにリョーマくんと似合わないのは事実。これから私はどうするべきなんだろう?




「名無しさん」


急に今するはずのない声がした。パッと振り向くとやっぱりリョーマくんで。それから時計を見てもまだ部活の終わる時間じゃない。




「リョーマくん、部活は?」


「休憩中」


私が座っている前の席に彼が座る。休憩中と言っても10分くらいなのに、わざわざ教室まで来た。どうして?と聞けば何となくと返ってきて会話が終わってしまった。彼氏といるはずなのに気まずいと思うのは何で?それが分からないまま、そろそろ休憩が終わりそうな時間。リョーマくん、部活…と言えば更に空気が張り詰める。思わずはあ、と溜め息が洩れてしまった。




「何で溜め息吐くわけ?」


そう言われてハッとした。謝ろうと出した声はリョーマくんが椅子から立ち上がった音に掻き消される。再度謝ろうと私も立ち上がるとリョーマくんが私の手首をグッと掴んで後ろの壁に追いやった。そのまま壁に押し付けられたまま、噛み付くような甘いキスが降ってくる。何度も角度を変えて息の吐く暇さえないキス。ゆっくりと唇が離れるとき、銀色の糸が私たちを繋いだ。




「何考えているか分からないけど、俺はあんたを離す気ないから」


「…似合ってないって言われても?」


「じゃあ名無しさんは俺から離れる気があるわけ?」


リョーマくんから離れればそれは平和な日々が戻ってくるだろう。だけど彼が他の子といる姿を平然と見れるわけない。想像しただけで涙が出そうなくらい辛いんだから。その想像を振り払うように必死に顔を横に振る。すると頬に手が添えられて甘い口付けが降る。




「好きだよ、名無しさん」


だから離れないで。キスの合間にそんなことを耳元で囁かれて返事をしたくてもまた唇を重ねてくる。これからどうしたらいいかなんてもう考える必要がない。







本能的に
(お互いに不安だったりするんだ)



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