PrinceV
□積もる雪に隠して
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明日は雪が降るでしょうと夕方のニュースで気象予報士の人が言っていたように朝起きてカーテンを開けると、薄っすらで銀世界と呼ぶにはほど遠いけど一面真っ白。それでも滅多に降らない雪は嬉しくて寒いけどいつもより早めに家を出た。
まだほとんど誰も通っていない綺麗な白色の中を歩くだけでワクワクする。その中で同じ方向に歩いている足跡を見つけた。何の根拠もないけれど、何となく誰だか分かる気がする。下を向いていた顔を上げて前を見るとやっぱり正解のようだ。眠たそうにフラフラと歩く人に小走りで近寄って声を掛けてみる。
「リョーマ、おはよ」
声を掛けると、寒そうにマフラーをぐるぐる巻きにして大きなテニスバッグを背負っている彼が振り向いた。そして眠たそうな猫目が少し大きくなる。
「名無しさん、出るの早くない?」
「早く起きちゃったから」
ふーん、と返されて会話終了。それでも気まずいと思わないのはリョーマだからかな。リョーマの歩くペースがほんの少しだけ遅くなって私と同じペースになっているのが嬉しい。
「学校から帰ったら雪だるま作ろうね」
俺、部活あるんだけどと嫌そうな顔をしたけど気づかないふりをして、だから帰ったらだよと笑って返した。リョーマが帰ってくる頃には雪は溶けてるかもしれないけど。それでもそういう小さな約束を交わしたくなった。
「じゃあ部活終わったら名無しさんの家に行くから」
うん!と大袈裟に喜べば、子どもみたいと笑われた。そんなこと言ったってリョーマも同い年なのに。子どもだから雪が降った日には早く家を出たくなるし、雪だるまも作りたくなる。子どもだからリョーマの隣にいられるの。大人になってもこのままでいられるか分からないから、今私の心にあるものに気づかないふりをして、ただ無邪気でいたい。
積もる雪に隠して
(何も溶けなければいいのに)
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