PrinceV
□五文字
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仮にもお互いが好きで付き合っているはずの彼女にだいきらい!と叫ばれたら、いくら天才的な俺でもへこむ。それはもうベッコベコに。
だいきらいの五文字。たったそれだけ。それでも破壊力は抜群。その五文字が出てきたのは付き合ってから日常的にある口喧嘩からだ。今日の原因は何だったかもう忘れているくらい些細なことだった。だけどお互いプライドのせいで譲れなくて、最終的には名無しさんにだいきらい!と叫ばれてしまった。
その言葉は俺の脳内で嫌ってほどこだまして、でっけぇ金槌でぶん殴られたみたいに響く。多分、あいつもハッとしたんだろうな、わかんねぇけど。お互いそれから何にも言わなくなってバカみたいシーンと静まり返っていた。
「…分かったよ」
何が分かったのか分からないけど、俺の口からそう出てきた。多分これ以上傷つきたくないっていう俺の女々しい部分が出てきたせいだ。何だこれ、すっげえ格好悪い。へこんだ自分が情けなくて逃げ出したくて俺はくるりと彼女に背を向けて歩き出した。
ほんの少し歩いてすぐに後ろを振り返りたくなった。だけどそれが出来ない俺は臆病者。ちゃんとわかってるんだ、名無しさんの言ったことは本心じゃないことに。だけど俺の中で何かが揺れて格好悪いけど怖くなった。もうごちゃごちゃだ。
「…ブン太!」
ごちゃごちゃの俺の中にスーッとその叫び声が入ってきた。反射的に後ろを振り向くと名無しさんが腕の中にダイブ。グラリと後ろに倒れかけるのを何とか支えた。
「あいしてる」
最悪だった五文字が最高の五文字に変わる。こいつ男前だな、というか俺が女々しいのか。誰かの一言に一喜一憂してしまうなんて名無しさんと出会わなかったら知らなかったこと。
「もうだいきらいなんて言うな」
「うん、ごめんね」
ぎゅっと抱きしめて言えばへラリと彼女が笑った。こいつ、俺がどれくらい怖い思いをしたか知らないんだろぃ。それぐらい名無しさんが好きなんだよって伝えたいけど言わない。
五文字
(君の一言で一喜一憂)
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