PrinceV

□飛行機雲
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目まぐるしく人々が行き交う空港。その中で立ち止まっている私たち。片方は軽い荷物で片方は重たい荷物。




「じゃあ行ってくるから」


彼は私を置いて海を渡る。アメリカに行くからと告げられたのはほんの2週間前のこと。普通の女の子だったら2週間で気持ちの整理をするのは無理なんだからね。それでも私はちゃんと受け入れて見送ることにした。止めたって聞き入れないのは彼と付き合った頃から分かってること。だけど少しぐらいわがまま言ってもいいよね?




「私、リョーマのわがままたくさん聞いてるよね?」


「うん」


「だから私のわがままも聞いてほしいんだ」


「何?」


ぐっと胸が詰まって泣きそうだ。寂しいっていうのも一理あるけど不安の方が大きい。浮気とかそういうのじゃなくて生存の方。




「…無事に帰ってきてね」


彼のことだからいつ帰ってくるかは分からない。だけど無事に帰ってくればそれでいいんだ。あとはたまに連絡をしてくれたらもう充分。




「分かった。名無しさんがちゃんと俺の帰りを待っててくれるんでしょ?」


それはもちろん、と返すと珍しくぎゅっと抱きしめられた。腕の中で私にも聞こえないくらいの声で大好きと言われた気がする。私も大好きと伝えると更に抱きしめられたから多分あってる。




世界中で一番大切な君。どこにいたって無事でいてくれればそれでいい。私は君の帰りを待ってます。






飛行機雲
(空を見上げて待ってます)



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