PrinceV

□何でもいい口実
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「…降ってきちゃった」


雨は好きじゃない。大嫌いになったあの人を思い出してしまうから。相合い傘したとか別れを告げられた日も雨だったなとか。


嫌なことを綺麗さっぱり洗い流してくれるならいいけど、私にとって雨はいつまでも心に染み込んでくる嫌なもの。だから雨は嫌い。




しかも今日は傘がない。朝ちゃんとお母さんの意見を聞かなかったからだ。傘持って来なさいよ、と言われて外に出たら快晴だったから傘を離した。朝の私のばか。





「…濡れて帰ろう」


すぐとまではいかないけど近い方。待ってても止む気配がないし、もっと強くなったら困る。濡れたら嫌だけどここまで空を見上げて待っているともっともっといろいろ思い出してしまいそう。覚悟を決めて屋根のあるところから一歩踏み出すと手首を掴まれて後ろに引かれた。




「傘ないわけ?」


「越前くん…」


一瞬でもあの人かなって思った自分が嫌い。そんなわけないって私が1番わかってるはずなのに。それを隠してへラリと笑って、忘れちゃったと伝えると越前くんが持っている傘を差し出された。




「使えば?」


「越前くんも帰るでしょ?」


「俺、部活あるから」


校舎内で部活があるって言っても帰りは傘を使うよね。帰りまでに止んでるって保証はない。




「じゃあ2時間後ぐらいに終わるから持って来て」


それだったら濡れないけど、そこまでして越前くんに傘を借りる意味ってあるのかな。多少濡れる覚悟はもうできているのに。





「じゃあまた後で来て」


そう言って越前くんは再び校舎の中に入って行く。私の手には越前くんの傘。







何でもいい口実
(そんなことに私は気づかない)




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