PrinceV
□不器用彼女
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彼女は本当に不器用。何かするにしても何かしらの失敗をする。そんな姿を見て守ってあげたいと男心を擽るけど、それが天然だからたちが悪い。
俺の誕生日だからって名無しさんは気合いが入っていた。家に呼ばれて雨宮家に着くと珍しくリビングに通された。そこで俺の目に飛び込んできたものは大量の食材。
「何これ」
「これからリョーマにご飯を作りたいと思います!」
なるほど、そういうこと。何度かお昼にお弁当を作ってもらったけど名無しさんのお母さんとの合作らしい。だから一応聞いてみた。1人で作るわけ?と。今はいないけど帰ってきたお母さんと作るのだろうと思って聞いた。だけど彼女から返ってきた言葉は違った。
「1人で作るよ!」
自信満々に返ってきたその言葉。名無しさん曰く、両親は某有名テーマパークに泊まりに行ってしまったとのこと。思わず大丈夫?と言いそうになってしまったのを慌てて呑み込む。エプロンを着けていそいそとキッチンに向かう名無しさんが愛しくて、そのやる気を削がないように彼女に任せようと思った。
待つこと2時間。まだいい匂いはしてこない。不器用な彼女は当たり前のように苦戦。名無しさんが俺のためにやってくれてることは嬉しいんだけど、こんなに放置されるとさ…。
俺はそーっとキッチンの方に行く。抱きつくなんて普段やらないけど俺の誕生日だし、そもそも放置されすぎてたからたまには。後ろから抱きつくと、ひゃあっ!と情けない声が響く。
「リョーマ、茶碗蒸し難しい…」
今にも泣きそうな声。俺の好きな茶碗蒸しを作ろうとしていたらしい。悪戦苦闘しながら頑張ってたんだなと思うとそれだけで頬が緩む。後ろから抱きついているおかげで見られなくてよかった。
「いいよ、名無しさんが一生懸命やってくれたなら」
さっきよりほんの少しだけ強く抱き締めると名無しさんが俺の腕の中で向きを変えて腕を背中に回す。不器用だけど甘えるのがうまいんだよね。こういうところに男は弱いんだろうな。もちろん誰にも渡さないけど。
しっかりと抱きしめてから少しだけ緩めて名無しさんの頬に手を添える。何をされるのか分かったのか無防備に目を閉じた姿が愛おしい。ゆっくり唇を重ねると背中に回っていた腕の力が強くなる。
「さっき言い忘れてたけどエプロン姿可愛い」
キスの後、これまた珍しくそう言う俺に名無しさんの目が大きく見開いた。リョーマがデレてる!と感動すらされてしまった。名無しさんといると本当に調子が狂う。照れ隠しに彼女のアタマを軽く叩いた。
「ほら、手伝うからやるよ」
「えー、1人でやりたい」
「あと何時間待たせるつもり?」
ちょっとした文句のつもりで言ったのに、そっか、寂しかったのか!と解釈されてしまった。誰もそんなこと言ってないんだけど。
こうじゃない、ああじゃないと言い合いながら作った茶碗蒸しを含めた料理はお世辞にも美味しいとは言えないものばかりだけど名無しさんが楽しかったね!と笑うからそれでよしとしよう。
不器用彼女
(結局惚れてるから関係ない)
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