モノクローム
□勝つための犠牲
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行為後、まだ息が上がっている私を包み込むようにリョーマくんが抱き締めてくれてる。しかし彼がなぜいきなりこんなことをしているか分からない。
「越前、性格悪すぎ」
萌がクスクスと笑う。私の小さな脳では萌が笑っている理由や話の道筋が見えない。
「名無しさん、あれ見てみなよ」
萌がそう指差したのは新崎さん。彼女に目をやると酷く歪んだ表情を浮かべている。
今にも切れてしまいそうなくらい下唇を噛み、悔しそうな表情。
「好きな人のキスシーン程、見たくないものはないよね」
ああ、そういうことか。確かに見たくないもんね。寧ろ目の前ならなおさら。
「俺は名無しさんしか見てないから」
彼は私の目を見たままそう言う。その言葉は私に対して言っているのか、新崎さんに対して言っているのか分からない。多分どちらにもなんだろう。
『私もリョーマくんだけ』
ギュッと抱きついて言うと、知ってるという返事が耳元で囁かれた。
「ねぇ、新崎さん。いい加減自分に勝ち目がないって分かったでしょ?」
萌が勝ち誇ったようにニヤリと笑う。責めすぎなのでは…と止めようと思ったけど、リョーマくんにアンタは黙ってて、と逆に止められてしまった。
「いい加減、出ていってくんない?」
リョーマくんはさっきから新崎さんを見ていない。新崎さんはリョーマくんを見ているのに。
新崎さんはいてもたってもいられなくなったのか、逃げるようにバタバタと屋上から出ていった。
その時一瞬見えた彼女の瞳は、涙を溜めて揺れていた。
勝つための犠牲
(申し訳ないけどごめんなさい)
-contiune-
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