AliceV
□ロンリー ロンリー
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いつもは甘えてくることなんかないのに、何故か今日は夜中に俺の部屋を訪れてきた。好きだから付き合っている恋人を拒否する理由なんてない。俺は自分の布団に招き入れた。
「眠れねぇのか?」
ちょっとね、と名無しさんが曖昧に返す。名無しさんは見たこともないくらい切なげでやるせない表情だった。だけど何故そんな表情をしているのか俺には分からない。理由を聞こうとすると、もしもの話だけどと彼女に遮られた。
「もしも棗の前から私がいなくなったらどうする?」
それは一体どういうことなんだろう。名無しさんがいなくなったらなんて考えたこともないし、考えたくもない。それでも答えて、なんて名無しさんが珍しく急かす。
「知るかよ」
最低な答え。どうして気の利いた答えが返せないんだろうか。でもきっと名無しさんならこの答えが本心じゃないって分かってくれてるだろう。
「急に変なこと聞いてごめんね」
さっきのは俺の本心じゃないって分かってくれてるからこそ、この話を終わりにしたんだと勝手に解釈した。だからそれ以上この話を広げようともせずにそのまま眠りについた。
朝起きて隣に名無しさんがいない。自分の部屋に戻ったのかと納得して、教室に行く準備をする。昨日の質問といい、朝いないことといい、一体彼女は何を考えているんだ。教室に行ったら改めて聞いてみよう。
「雨宮名無しさんちゃんはアリスがなくなったため、今朝早く学園から去りました」
朝、ナルがポツリポツリと言った。名無しさんがナルに口止めをしていたようで、どうやらクラスの奴で誰も知らなかったらしい。もちろん俺も知らなかった。だけど昨日俺の部屋に来たのもあんな質問をしたのも全て繋がる。
1限が始まる前、俺は1人で教室を出て行った。どこに行っても名無しさんはいないって分かってはいるけど、心がついてこない。サボっていれば名無しさんが文句を言いながら探しに来てくれるような気がして。
あの時質問にちゃんと答えられていたら違ったのかもしれない。アリスを失ったから学園を去ることには変わりないが、それでも名無しさんにとっても俺にとっても何かが違ったのかもしれない。
「これからもずーっと一緒にいようね、棗!」
以前屈託のない笑みでそう言った彼女に俺は何と返したんだっけ。それすらもはっきりと覚えていないなんて俺はあいつがいる未来を当たり前だと思って生きてきた。今名無しさんに同じ言葉を掛けられたらきっともっと幸せにしてやれる言葉を返せていたのに。
ロンリー ロンリー
(当たり前じゃないと知った)
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