AliceV

□甘美
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俺たちは人生を語るにはまだ幼すぎると大人は言うだろう。それでも人生をかけて名無しさんを守ると決めた。守っていけるのは俺しかいない。しかしそう思ってるのは俺だけだったのか。




その日は突然やってくる。ある日、名無しさんは他の男のところに渡った。告白されたみたいでそれにイエスと返事をしたとのこと。恋人が欲しかっただけなのか、そいつが好きだったのかは聞く必要のないこと。祝う気分にも受け入れられる気分にもならない。毎日毎日惚気を聞くのは何の拷問かと思っていた。でもそんな惚気話も長くは続かずに、いつの間にか名無しさんは俺のところに来ては縋るように泣き言ばかり。





「さっさと別れろよ」


「…別れたらきっと寂しくなるもん」



答えの決まったこの問答を一体どれだけ繰り返したんだろう。名無しさんはそいつに対して恋愛感情はもう薄れていて、そしてきっとそれは相手も同じで。でも恋人という言葉に縋っている理由はただのプライドだろう。相手を傷つけたくないなんて言う奴もいるがそれはただの綺麗事にしか過ぎない。





「俺に何を望んでるんだよ」



縋る彼女に初めて聞いた。何かを求めて俺のところに来ているんだろう。何を、って声を震わせた。別に脅かしたいわけじゃない。ただのこの名前のない関係が嫌になっている。そして今まで行動できていない俺自身にも。今日でその関係に終止符を打とう。





「俺に忘れさせてほしいんだろう?」


耳元で囁いた俺に名無しさんが少し怯えたようで、でもどこか期待しているように見えた。都合のいい解釈か。自信?根拠?自惚れ?残念ながらそんなのは持ち合わせていない。そんなものがあったらとうの昔に自分のものにしている。




「嫌だったら殴ってでも逃げろ」


腰を引き寄せ、狂ったように口付けた。言葉とは裏腹に逃げてほしくないという感情が名無しさんの腰を抱く力を強くする。唇を離しても彼女は逃げない。それが何を意味するのか分かっているのか。身体が少しも離れないよう抱きしめ、もう一度唇を重ねた。







甘美
(口、開けろ)






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