ユーレカ

□世界が変わる
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あの日からずっと彼に会いたくて会いたくてたまらなかった。だけどきっと会えないでいたほうが私のためにも彼のためにも幸せだと思う。この世には知らない方が幸せだってことがたくさんあるから。もしこの空よりずっと高いところに神様がいるとしたらあなたはどれだけ意地悪な人なんだろう。あなたはこれも運命だと笑って見ているの?







「お母さん…っ」


その言葉を久しぶりに発して私は飛び起きた。顔も背中も汗でびしょびしょで気持ち悪い。もっと言えばあんな夢を見たこと自体気持ち悪い。




時は何年か前。私がこの学園にくる少し前。私は天賦の才能を持って生まれてしまった。両親は私を学園から守るためにたくさん逃げてくれた。逃げて逃げて逃げて、だけど家に帰ってきていたらいつの間にか両親が荷物と一緒にいなくなっていた。俗にいう見捨てられたと一言で済まされるほど簡単ではなく、残酷で惨めで人を信じまいと思うには十分だった。それから私は行く場所もなく、辿り着いた先はアリス学園。





「君の入学を歓迎するよ、雨宮」


高そうな机を目の前にしてこれまた高そうな椅子に踏ん反り返って座っている同じくらいの年齢の人が妖しくそう囁いた。妙な威圧感がひしひしと伝わってくる。この人は一体何が言いたいんだろう。





「入学生の一人一人にそう言っているんですか?」


「まさか、君だけだ」


机に頬杖をついて彼はクスリと微笑んだ。何が可笑しいのか、彼が何を考えているのかわからない。





「危力へ入って立派に活動してくれ」


もっと分からない言葉が降ってきた。とりあえず平穏な日々にはならない予感。極力他人と関わらないなら何でもいいと思っていた。







「….変な夢見ちゃった」


まさかあんな言葉を言うなんてバカみたいだ。ついでに入学したときのことも思い出すなんて本当に気持ち悪い。もうこの学園も任務にも慣れた。周りから後ろ指を差されることも慣れた。当初の希望通り最低限の他人と関わっていない。それなのに今朝はすごく嫌な予感がする。







世界が変わる
(変わらなくていい)



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