ユーレカ

□仮定は真実に
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あいつがこの前1人で任務をしたのはきっと無力な俺を守るつもりでやったんだろう。危力の任務を初めて見たとき、あいつを守りたいと思ったのに守られてる。俺はあいつを守れないくらい無力なのか?




日が沈み始めたころ、俺は彼女の部屋に向かった。コンコンとノックをすると綺麗な声が返ってくる。ガチャっと音を立てて俺を見た瞬間、ドアを閉めようと思いっきり引いた。すかさずドアの間に足を入れて閉めさせない。




「帰ってよ!」


「こんなところで口論になっても目立つだけだろ」


これは仮定だけど、もし彼女が俺のことを覚えているとしてそれでも知らないふりをしているのなら、きっと俺に関わりたくない何かがあるんだろう。確かめるために言ったその言葉に彼女の顔はハッとした。そして静かにドアを開けて俺を中へ招く。




「何の用?」


まるで突き放すように冷たく彼女が言い放つ。昔出会ったころと口調もトーンも違う。別人だと思うほどに。だけどそれは彼女が俺に対して創り出している姿だろう。




「あの時の悠だろ?」


この学園で初めて話した言葉をもう一度言う。自分でもしつこいと思うけど悠じゃないはずがない。だけど彼女は肯定も否定もせずに、ただただ俯いて拳をぎゅっと握りしめていた。悔しいのか悲しいのか辛いのか、その握っている手にどんな意味が込められているか俺には分からない。




「お願い…私に関わらないで」


彼女がようやく出した声は儚く消えてしまいそうなくらい小さくて震えていた。別に泣かせたいわけでも傷つけたいわけでもない。ただ悠が何のためにそういう行動を起こしているかが知りたい。知ったら彼女を守れる気がするから。





「任務と関係があんのか?」


彼女の肩がビクリと動いた。何となく分かった気がする。俺への任務を無くすために悠はこの前1人で出たんだろう。関わらないでって意味は自分といると危力に目を付けられるからか。





「お前、もう任務するのやめろ」


「そんな簡単に言わないでよ!」


「俺がお前の代わりにやる」


「だからそんな簡単に言わないでよ!」


怒鳴って泣いて彼女はその場にうずくまる。こんな奴にあんな任務をやらせるなんて知ったからには身を引けない。彼女の代わりに任務をすることがきっと守る術だ。




「俺が守ってやる」


「棗は関わっちゃだめなの!」


悠がそう言ってから俺も悠もハッとした。まるで空気が止まったように。気がついていたら俺は慌てる彼女を床に押し倒していた。そして俺の下で真っ赤になっている彼女にたった一回だけ口付けた。







仮定は真実に
(守りたい、好きだから)




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