ユーレカ

□リップノイズの音色
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守ってなんてほしくない。彼がこっちの世界に関わらなければ私はそれでいいのに。結局気づかれてしまった。昔会ったときに呼んでいた棗という呼び方が出てしまったから。しまったと思ったときには私の目の前はくるりと変わっていて見えるものは彼の顔と部屋の天井。彼が迫ってくるその光景はまるでドラマのワンシーンをコマ送りで見ているよう。気がついたら唇が重なっていた。





「棗、」


そして彼の名を呼んでいた。たった一度のキスで私の心の中にあった何かがするすると解けてしまった。今、私はどうやったら彼を突き放せるのか分からない。彼を守るために突き放すべきなのにどうして分からないのだろう。





「守ってやる」


私の上にいる彼から再び舞い降りてきた何よりも甘い甘い言葉。守ってなんてほしくないのに、どうしてもその言葉が私の胸を打つ。そして頷きたくなってしまう。





「だめだよ…」


その声は震えていて何の説得力もない。だけどだめなの。私のように任務に出るような人を増やしてはいけない。もっと光の世界で生きてほしい。





「だめかどうかは俺が決める」


彼はそれだけ言って私の上から退いて部屋を出ていった。ポツリと1人になってひどい虚無感に襲われる。私は一体何やってんだろう。守ってやるなんてとてつもなく甘い言葉に縋ろうとしていた。守ってもらうんじゃない、私が守るんだ。任務だって1人でやることを今すぐ初校長に言いに行こう。







リップノイズの音色
(強くも弱くもした音色)



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