ユーレカ

□ワン・トゥ・スリー
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いつもならなんてことのない相手のはずなのに、僅かなブランクが響いているのか思うように戦えない。負けるわけじゃないけど勝てない。それにこの人数の差、このままだと私が力負けをするのは歴然。あなたたちも負けられない理由があるかもしれないけど、こっちも絶対負けられない理由があるの。




息を切らして走ってようやく小さな建物の影に身を隠せた。だんだんと視界が明瞭になる程薄れてきた霧のアリスが私の体力の限界を物語っている。考えろ、考えろ。今から私が逆転する方法を。





「いたぞ!舞姫だ!」


でも敵は考える暇さえ与えてくれないのね。当たり前なんだ、戦いで勝つためには。隙を見せるなと任務で一番学んだこと。だけど今の私は隙だらけ。そして敵が隙を見せたら容赦なく倒せと任務で知った。隙がある私、目の前にいる敵。これが一体どういう意味を示しているか分からないほど、私の経験は浅くない。




勇ましい雄叫びに思わず身体と気持ちが怯む。隙を見せずに強く凛としていなくてはいけないのに、まるで今まで任務をやっていなかった人のように怖くなる。どうしても動けなくて気がついたら私の身体は傷だらけ。身体中のどこに触れても生温かい血が手につく。ぼんやりとしたまま、地面に倒れこんだ。





「舞姫を捕らえたぞ!」


誰かが私の腕を掴んで言うと、うざったく耳につく歓喜の叫びが脳内にこだまする。私、これからどうなるんだろう。捕まった先なんて嫌な噂しか聞かないのに。とりあえず学園には戻れないんだろうな。走馬灯のように今までを思いだす。もう少し信頼できる人を作ってこの力を持って生まれてよかったと思える学園生活を送りたかったな、なんてこんな時に考えるのはそんな願望。





そんなことを考えていると敵の歓喜の声が悲鳴に変わっていく。何、何が起きているの?ぼんやりする頭で何とか考えられたのは、さっきより視界が明るくて、いや赤いんだ。まるで彼の瞳のように真っ赤。どうやら考えられるのはそこまでらしい。








ワン・トゥ・スリー
(私は、落ちた)




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