ユーレカ

□紡ぐ赤い糸
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確かに聞こえたんだ、誰かが私の名前を呼んだのが。だから暗い渦の中から手を伸ばしてみたくなった。伸ばしても光に届くかわからないけど、きっと誰かが掴んでくれるような気がして渦の中で必死に伸ばし続けた。そうしてようやく触れたんだ、温もりに。




「悠」


また誰かが名前を呼んでくれて手を握ってくれた。知ってるの、この温もりの持ち主を。そして身体の全神経が起きろと動き出した。どうやらまだ諦めてしまうのは早いみたいだ。温かく握られている手をゆっくりと握り返す。そうしたら更に強く握られてようやく実感した。私は生きているんだって。




「…目、覚めたか?」


うっすらと見えていた視界が段々と明瞭になる。彼の顔を改めて見るとすごく疲れた顔をしていた。




「私、どれくらい眠っていたの?」


「3日だな」


3日間も目が覚めるのを今のようにずっと手を握って待っててくれたのかな。分からないけどすごく怖かったと思う。ありがとう、と言うと彼はふいっと顔を逸らした。そして繋いでいない方のベッドに手をつき、ギシッと音を立てた。




「ちょっと寝かせろ」


彼がそのままベッドの中へ滑り込んで横になった。そして私を自分の方に引き寄せてぎゅっと力が入れられる。ああ、自分に必要なのはこの温もりなのかもしれない。





「悠、俺の名前を呼べ」


しがみつくようにぎゅっと抱きしめられる。守りたいとか守ってほしくないとかそんなことを考えない素直な女の子になりたくて、彼の名前を何度も呼んだ。呼ぶ度に抱きしめられる力は強くなる。




「好きだ、好きだから守りたい」


その言葉はスーッと私の中に染み込んでいて、心にあった淀みを消してくれた。いい加減素直にならなくてはいけないと知らされる。




「好きだよ、棗」


ぎゅっと抱きしめ返して彼の胸に顔を埋める。どうしたら今まで距離をあけていた時間を埋められるだろう。何度も好きだよと連呼してもまだ足りていない。分かったと言わんばかりに彼が覆いかぶさって組み敷かれる。それから何度も角度を変えて息つく間もないくらいのキスが降ってくる。もうこの温もりを拒否したくない。







紡ぐ赤い糸
(大好きだから大切に、大切に)



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