PrinceU

□甘い誘惑
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『リョー、マ…っ』



電話越しの名無しさんの声。その声は啜り泣いていた。俺はいてもたってもいられずに、家を飛び出して夜道を走った。





名無しさんの家の前に着いた。吐く息が荒くて白かったけどそんなの気にしない。



インターホンを押すと、目を真っ赤にした名無しさんが出てきた。…その姿が無上にも可愛くみえて自分がムカついた。






『リョー、マ…っ』


電話越しと同じ声。しかしさっきと違うことは今名無しさんは俺の目の前。




「何があった……っ!」


最後まで言えなかった。名無しさんが俺の胸に飛び込んできたから。弱々しく肩を震わせている彼女の背中にそっと手を回す。





名無しさんが泣いている理由は何となく分かる。…多分、彼氏に振られたんだろう。だって泣きたいなら彼氏に電話すればいいのだから。

わざわざ俺に電話するなんて、名無しさんに酷い性格だと思う。まあ、それに分かっていながら来る俺も凄い。





「…振られた…っ」



やっぱり当たった。どう反応していいか分からなかった。
でも本心を言うと心の底から嬉しい。だって俺はずっと名無しさんのことが好きだから。






「もう、忘れなよ」



その言葉に彼女は無理だよ、と首を振る。だったら俺が忘れさせてあげる、その言葉が喉まで上がってきたけど飲み込んだ。言うのはまだ早い。







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