「名無しさん…」
甘い声で名前を呼ばれて後頭部に手を回されたら、それがキスの合図になる。だってリョーマとは恋人同士だもん。
…だけど、今日はごめんなさい。
「は…?」
迫ってくるリョーマの口元を私の手で塞いでしまった。もちろん、リョーマが不機嫌になるのを承知の上で。
「キス、嫌なわけ?」
『そうじゃなくて…』
じゃあ何、と後頭部を引き寄せる力が強くなった。それに負けないよう、私はリョーマの口元を押し返す。更にそれらに比例してリョーマの機嫌はどんどん悪くなる。
「一体何のつもり?」
『今日はキス出来ないの…』
「何で」
『…風邪、引いたから』
「は?」
実は昨日の夜から喉が痛くてくしゃみが出ている。だからキスなんてしたら風邪が移ってしまう。だから出来ないの。
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