PrinceU
□神鳴り
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『あちゃー、降ってきちゃった…』
図書室から空を見上げると、雨雲が広がっている。今日は寝坊してお天気お姉さんの話を聞かないで家を飛び出しちゃったから、傘を持ってくるの忘れちゃった。
しかしそのうち止むだろう。私の勘が正しければ通り雨のはず。それまで図書室で時間を潰そう。
『なかなか止まないなー』
パッと読んでいた小説から顔を上げて窓の外を見る。さっきは雨雲って感じだけど、今は雷雲と言った方が正しいと思わせる黒い雲が空を覆っている。
…あれ、もしかしてこれってまずい?雷が鳴ったら私動けなくなる。
『じゃあその前に…っ!』
まだセーフだと思っていたのに、立ち上がった瞬間アウト。真っ黒い空が鳴き始めた。心臓に響くような重低音。空を見なくてもそれが何だか分かる。鳴いて数秒経ったあと、稲妻が空を走った。
ここできゃああ!って叫ぶ女の子は可愛いと思う。本当に恐いときは叫び声なんかあげられない。なるべく聞こえないように、なるべく見えないように、耳を塞いでギュッと目を閉じた。
「先輩、大丈夫っすか?」
トントンと肩を叩かれて振り向くと、さっきまで受付にいた男の子が私のそばまで来ていた。この状況を見て大丈夫なもんか、と思ったけどまた空が光ったので、ギュッと目を閉じてから首を横に振った。
情けないな、この男の子より2学年年上なのに。でも恐いものはしょうがない、と開き直ったとき、不意に頭に手を置かれた。耳を抑えたまま顔を上げるとさっきの男の子。その彼が私の頭をゆっくり撫でている。しかも困った顔で。
『どう、したの?』
「…少しは落ち着いたっすか?」
『あ、うん…』
呆れたような素っ気ない態度なのに撫でてくれる手は優しい。雷の音さえも遠くに感じるくらい。
そのまま雷の音が遠くに聞こえるまで、ほぼ初対面の彼は私のそばにいてくれた。何でか分からないけど。
「あ、雨上がったっす」
トントンと肩を叩かれて窓を指差す。外を見ると空を覆っていた真っ黒い雲が消えていて青い空が広がっていた。
「じゃあ帰りましょ」
『…え?』
「帰らないんすか?」
『一緒に?』
「嫌っすか?」
『あ、いや…』
じゃあ行きましょ、と先を歩かれた。あれ、この後輩くんの名前聞いてないや。
神鳴り
(君、名前は?)
(越前リョーマ)
-END-
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