PrinceU

□プロローグ
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『あー、降ってきちゃった…』




ちょっと目を離した隙に、図書室の窓から見える空に灰色の雲が広がっていた。梅雨だから仕方ないと思うけど、今日は傘を持ってくるの忘れたから降らないで欲しかったな。







濡れて帰ろうと覚悟を決め、読んでいた本をパタリと閉じた。この本は図書室の本で、素敵な物語の途中だから借りたかったけど、その本が濡れちゃうのは嫌だから今日は我慢。






ついてないなあ。寝坊さえしなければ傘を忘れなかったのに。そうしたら本も借りれたのに。はあ、と溜め息を吐きながら階段を下る。






「名無しさん先輩」



階段の上から私の名を呼ぶ声がした。見上げてみれば名前も知らない男の子。私は3年生だから後輩。





「傘、忘れたんすよね?」


『そうだけど、何で知っているの?』


「あんたがさっき言ってたんじゃん」




彼が階段を降りてきて、私のひとつ上の段に立った。え、こんな子と話したっけ?しかもさっきって。
よし、話を整理しよう。さっきいた場所は図書室で、私しかいなかった。いや、よく思い出して。もう一人いた。






『もしかして、さっき受け付けに座ってた人?』


「そうっす」



謎が解決。そっか、独り言で言ったつもりがバッチリ聞こえていたんだ。何か恥ずかしい。





「で話が戻りますけど、俺、傘持ってるっす」



えっと、だから何なのだろう。まさか自慢しに追いかけてきたのかな。もしそうだとしたらかなり性格が歪んでらっしゃる。







「一緒に帰りません?」



彼は照れ臭そうに、それでもしっかりと私の目を見て言った。私はその瞳に呑まれるかのように返事をした。





「じゃあ、お願いします。えっと…」


「リョーマ。越前リョーマ」


『じゃあ越前くんって呼ぶね』


「今はまだそれでいいっす」



そう言って彼はゆっくりと階段を降りていく。私も慌てて越前くんの隣に並んだ。








プロローグ
(素敵な物語が始まりそうな予感)




-END-



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