PrinceU
□上手くいく兆し
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『リョーマー!』
部活のジャージから制服に着替えて帰ろうとしたら部室の前に名無しさんがいた。入るときにはいなかったのに。長いポニーテールを揺らしながら俺の近くへ走ってくる俺の片思いの相手。本人は多分気づいてないけど、結構長く片思いしてるんだよね。
『振られたー!』
「は?」
俺は頭の中ですぐに変換できなかった。ふられた?あ、振られたか。
「誰に?」
『前に言ったバスケ部の人』
俺は古い記憶を必死に思い出す。何となくうろ覚えだが、名無しさんがそんなことを言っていた気がする。しかしあの頃はまだ気になる人だったと思う。いつの間に好きに変わって告白までしたんだ。
「で、告白したんだ?」
『ついさっき。でも駄目だった』
あはは、と名無しさんが虚しく空笑いをする。…抱き締めたいと思うのは男として当然だと思う。多分やらないけど。
『それで私考えたんだけど、失恋から立ち直るにはやっぱり髪の毛を切ることかなって』
…は?失恋したから髪の毛を切る?何、その考え。普通に意味分からないし、納得いかない。立ち直る方法なんて他にもいくらでもあるじゃん。
「やだ」
『え、何が?』
「名無しさんが髪の毛を切るの嫌なんだけど」
ちゃんと言っているのにまだ意味が分からないって顔をしている。意味なんてそのままじゃん。あ、ちゃんと言わなきゃ分からないのか。元来から鈍感なあんたには。
「好きだからに決まってんじゃん、あんたのことも。そのポニーテールも。だから切らないでほしいんだけど」
『え、あ、う…』
「日本語喋ってくんない?」
顔を真っ赤にさせながら口をパクパクと動かしているが声が出ていない。というかやっぱり気づいてなかったんだ。まあ、いいけど。
「告白の返事を今すぐに、なんて求めていない。だけど失恋を立ち直る方法の一つに入れてもいいと思わない?」
ここで触れたりなんかしない。そんな一時感情で俺に振り向いてほしくないから。ちゃんと好きだと思わせなければ意味がない。
「とりあえず帰ろう」
俺は何事もなかったかのように帰路へ歩き出した。さっきので少しでも名無しさんが意識し始めたら今はそれでいい。
『リョーマ、私…髪の毛切らない』
隣に駆け寄ってきた名無しさんが俯いて微かに震えながらそう言った。
上手くいく兆し
(リョーマ…)
(何?)
((何で普通なの?))
-END-
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