翼先輩が怒る、なんて思ってもいなかった。大きな笑顔で、名無しさん、よかったなー!って言って頭を撫でてくれると思ってた。
翼先輩が怒った原因。それは私の幸せな報告からだった。
『私、彼氏が出来ました!』
夜、私に良くしてくれている翼先輩の部屋に入るや否や、幸せな報告をした。よかったな、って頭を撫でてほしかった。だけど翼先輩が頭を掻いて大きな溜め息を吐いた。
『あの、翼先輩…?』
いつもと違う雰囲気を察知する。でもこんな翼先輩を見たことがないから対処の仕方が分からない。
「名無しさんは俺によかったな、って言ってほしいんだろ?」
座ってた翼先輩が立っている私のところに歩み寄ってくる。何だかいつもと違う人みたいで怖い。
「…悪いけど、そんなことは言わねぇから」
『な、何でですか?』
本当に分からない。彼が怒っている理由も彼が近づいてくるのが怖いと感じる理由も。
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