AliceU
□真夏の風物詩
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「…何でここにいるんだよ」
勝手に棗の部屋に上がり込んで勝手に冷房をつけて勝手にベッドに寝っ転がっている私と、帰ってそうそう眉間に皺を寄せている友だちの棗。私は誤魔化すためにえへ、と笑った。もちろん棗に効果はないけど。
「出てけ」
「やだ」
絶対言われると思って身構えていたから即答。悪いのは私ではなくてこの学園だもん。そしてこの流れは毎年のこと。
「毎年言ってるけどシングルのお前が悪いんだろ」
そう、私の星階級はシングル。もうずっとずっとずーっと上がっていない。部屋、お小遣い、食事など星階級での違いはあるけどそれは実力の差だからと許容範囲。しかし唯一許せないのは冷房。
「私の部屋は冷房つけてもあまり涼しくならないんだもん!」
絶対に星階級で冷房のパワーが違う。広くはないシングルの部屋よりこんなに広いスペシャルの部屋の方が冷房の効きがいいなんて絶対おかしい。そしてそれ程ここは快適で居心地がいい。私は自然と目をつぶった。
「だから夏はここにいることに決めたの」
「誰の許可で」
「もちろん無許可」
はあ、と棗が大袈裟に溜め息をひとつ。知らないんだ、溜め息を吐くと幸せが逃げちゃうんだって、と教えてあげると私が寝ている棗のベッドに他の体重が乗った。
「棗、何やってる…っ!」
ゆっくりと目を開けると私の上に馬乗りになる彼の顔が目の前。何この体制、それにこんな妖しく笑っている棗なんて見たことがない。
「毎年かなり耐えてたけど、そろそろいいよな?」
「いや、今年も是非そのまま耐えてくれれば…」
多分、私の顔は異常に引きつっているだろう。だってこんな棗は知らないし、両手首を掴まれて動けないし、私の心臓の鼓動は煩くて顔が熱い。
「そんな顔されても説得力ねぇよよ」
目が点になっている私に覆い被さって口付けをひとつ落とした。あれ、これっていつもと何か違う夏だよね。
真夏の風物詩
(違う、何か違う!)
(今年からはこうなんだよ)
-END-
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