AliceU

□重ねて、更に重ねる
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休日に自分の部屋でセントラルタウンで買った雑誌を鼻歌交じりでベッドの上に広げる。それに載っている一枚の写真が目に入った。私はそのページを開いて雑誌を持ち上げて部屋を出た。




「棗!海に行きたい!」


ノックもせずに扉をガチャリと開けて彼に叫ぶ。一瞬驚いていたがすぐに眉間に皺が寄った。おお、怖い顔。




「急に何だよ」


「だから海に行きたいの!ほら見て!」



私がさっきまで見ていた雑誌を棗の目の前に差し出す。海がすごく綺麗に写っている写真。私はこの写真のような海に行きたい。だけど棗が現実を突きつけた。





「今は行けねぇだろ」



それはそうなんだけどね。いくらこの学園が広くてもここに海がなければ、この学園の生徒たちは海を見ることはできない。普通の人が普通に暮らしている、私たちからすれば外の世界がすごく羨ましい。





「じゃあ卒業したら行こうね」



卒業すれば完全に自由ってわけじゃないけど外の世界に出れる。それってすごく視野が広がること。その記念に海を見に行きたい。





「そうだな。卒業したらな」



棗の表情がほんの一瞬だけ不安そうに見えた。そんなことを気づかないふりをして約束ね!なんて大袈裟にはしゃいで小指を結んで指切り。棗が何を考えているかは嫌でも分かる。でも私は気づかないふりをして未来の約束を重ねていこう。約束だもん、きっと守ってくれる。




「名無しさん…」


「何?」


「卒業したら一緒に暮らそう」



彼も私に未来の約束。もちろん答えはYesしかない。でも今はまだ頷かない。その理由はきっと口に出さなくたって分かっているだろう。






重ねて、更に重ねる
(一緒に卒業したときにまた言って)



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