AliceU

□深部浸透
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まだ十数年しか生きていないのに人生に見切りをつけるなんて早いと笑うだろうか。笑われても構わない。だって本当にそう思っているんだから。親の顔をもうすぐ覚えるってときに私はこの学園に入れられた。アリスを持つ子にとってここは安全な場所だと誰かがそう言っていた。それが私の幼い頃の記憶。




最初に言っておくけれど私は入学当時から人生に見切りをつけたわけじゃない。その当時は夢と希望に満ち溢れた普通の子だった。しかしその普通だった子は普通じゃない子に変わっていったのだ。初校長に愛でられ気がついたら裏の世界に入り浸る毎日。この学園の外には私を恨んでいる人はどれくらいいるのかさえ想像がつかない。




本当はこんなことしたくない。当たり前のように初等部の教室に行って友達ができて、学校帰りにはセントラルタウンに寄るような生活がしたい。しかし現実は教室に行っても友達なんかいないし、棗とたまに話すくらい。だから授業中の今だってこうして北の森でサボっている。





「あ、いた」


ガサッと音がして草むらから金髪の男の子が1人現れた。うだうだと悩んでいたせいか気配に気づかなかった。これが任務だったら、と考える辺りが普通の子じゃない。




「俺のこと知ってる?」


「…ルカくんだっけ?」


棗が以前彼のことをそう呼んでいた気がした。ルカくんは少し驚いたようにそうだよ、と言った。そしてその足でゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。ここは逃げるべき?悩んでいるのもつかの間、私は彼に手首を掴まれた。





「何?」


「こうしないと逃げちゃうと思って」



優しそうな見た目と違って意外と鋭い。彼の言うとおり、この手を振り払って今すぐ逃げ出したい。だけど久しぶりに触れた人の温もりが身体中に伝わって逃げたくないと心が言っている。





「何も用がないなら離して」


嘘、離さないで。今だけ、ほんの少しでいいから。手首を掴んでいるだけでいいから。しかしその切な願いは虚しく手が離された。…バカみたいだ。私は普通の子じゃないんだってば。人の温もりを感じる権利なんてない。





「そんな顔しないで」


その言葉と一緒にもう一度身体に温もりが走る。さっきとは違って今度は手のひらから。手を見ると彼の指が私の指と絡まって手を繋いでいた。





「少し一緒にいようよ」



ざあっと北の森の木々が揺れる。何を意味して言っているのか分からないけど、返事の代わりに繋がっている手に少しだけ力を込めた。







深部浸透
(見切りをつけるの早かったかな)



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