AliceU
□踏み入れたら戻れない
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昔学園に入って危力で初めて彼女を見たとき、大きな壁に拒否された感じがした。学園に入りたての俺も必要以上に他人とコミュニケーションを取ろうとはしなかったが彼女はもっとコミュニケーションを取ろうとしない。任務の時だって誰にも背中を任せたりせず、常に第一線にいる。凛として真っ直ぐ前だけを見て何の迷いもない人。そんな彼女に違和感があって2人きりになったとき、俺は名無しさんと名前を呼んだ。
「先輩をつけなきゃ駄目だよ」
無視されるかと思っていた。しかし俺が想像していた反応とは違い、彼女はクスクスと笑った。それから何?と聞き返される。考えてみれば質問するようなことは何もない。少しだけ困っていると彼女はじゃあ私から質問していい?と口角を上げる。
「…日向くんは強いね」
そう言った彼女の瞳はどこか寂しげで変な感じがした。強いねと言われても褒められているって感じではないのは分かる。でもね、と彼女は続けた。
「あまり前に出ない方がいいよ」
それは日常でのことなのか、はたまた任務のことなのか、いやきっとどっちもなんだろう。別に出たいと思ったこともないし興味もない。だけど…。
「それはお前だって同じだろ」
「私はもう手遅れなの。日向くんはまだ間に合うから」
だから大人しくしていた方がいいよ、と力のない笑顔で彼女が言う。それが何となく見るに耐えなくて俺は慌てて目を逸らした。
「それは俺が決める」
「でも一応忠告。先輩としてね」
先輩、と言う言葉がやけに響いた。立ち入れられない大きな壁が作られたみたいだった。これまで彼女は第一線で何を見てきたんだろう。俺は目の前にある壁を超えてみたいと思ってしまった。
踏み入れたら戻れない
(そんなの分かってるけど)
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