AliceU
□ほら、のみこんで
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蜜柑曰く、私と付き合ってから棗の雰囲気は随分柔らかくなったらしい。だからみんな棗に話しかけやすくなって好意を抱いている人も多いんだって。
「ぼーっとしてると取られちゃうかもしれへんで?」
蜜柑の言葉に少しだけどきりとした。それは蜜柑が言うからだ。もし他の人が言っても適当に相槌をついて聞き流せるのに蜜柑だから。棗が誰かのところに行くとすればきっと目の前にいる彼女はだろう。でもそんなの絶対だめ。蜜柑であろうと他の子であろうと考えただけで嫌だ。私は蜜柑に精一杯の笑顔で気をつけるね、と告げて棗のところに向かう。
「怖い顔してる」
「知ってるよ」
蜜柑に上手く笑えていたかな。笑えてなかったらごめんね、とそっと心の中で呟いてみた。
「何があったんだよ」
何もないよ、と私は首をヨコに振った。棗がそうやって心配してくれるだけで十分。だけど少し離れたところで棗のことが好きな子たちがヒソヒソと話しながらこっちを見ていることに気がついてしまった。あんな子たちに棗を譲る気なんてないけど一応予防線。
「棗、キスして」
会話になってねぇよ、なんて言いながらも棗はちゃんと寄ってくる。はたから見ている人たちに性格が悪いと言われても構わない。だからみんなちゃんと見てて。誰は誰のものなのか。
ほら、のみこんで
(勝ち誇って笑ってもいいですか)
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