スターダスト

□最後まで笑顔で、
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外が騒がしくて目が覚めた。隣でまだ寝ている棗を起こさないようにしてベッドを降りる。窓を開けて空を仰ぐと綺麗な晴天。下を見ると紙がたくさん落ちている。






「始まったみたいだな」



寝起きの棗が私の後ろに立って抱きしめてきた。朝だからなのか、いつもより掠れている声が好き。





『ごめん、起こしちゃった?』


「別に」



棗がくあっと欠伸をする。それと同時に地面におちている紙と同じものが部屋の中に一枚入ってきた。





それは新聞部の号外。

見出しは"行方不明だった雨宮名無しさんを発見!彼女は非アリスに!"





これは殿先輩たちが昨日新聞部に頼んだこと。これで学園中を騒ぎ立てることが目的。それはまだ始まりにしかすぎない。大切なのはここからなの。






「そろそろ動くか」



棗の言葉にこくり、と頷いて私は昨日ルカに借りた笛を吹いた。音に呼ばれた鳥が私たちを乗せて部屋を出る。向かう先は学園の屋上。






『うわ、下に人がいっぱい』


「あれだけの騒ぎを起こしているんだ。人が本部に集結するのは当たり前だろ」



そうなるのは計算内だったけど、やっぱり驚く。しかしこれで向こうはこちらに出向くしか出来なくなっただろう。






着いた屋上には蜜柑や蛍、ルカなどみんなが待っていた。さあ、この計画の問題点はここだ。今、この場に彼が現れるかどうか。






『大丈夫、きっと成功するよ』



小さく自分に言い聞かせると、みんなに聞こえたのか頷いていて、棗はギュッと手を握りしめてくれた。







「よくも騒ぎを大きくしてくれたな」



初校長とペルソナが現れた。作戦は成功だ。ここまできたならもう譲歩するわけにはいかない。







『あの記事、ご覧になりました?』


「名無しさんがアリスを失ったという記事か。そんなのは関係ない。戻って来い、今ならそこにいる奴らも処分したりしない」



どうやら私がアリスを失ったことは信じているらしい。おおかた高校長に確認したんだろうけど。






『それより覚えてないんですか?私との約束を』


「約束?」



『万が一、私が命を落とした場合やアリスを失った場合もその約束は続くこと。それともし貴方が約束を破った時は、ここから出すこと』




それは私が初校長といることを決断したときに彼に言ったこと。棗に任務をさせた時は上手く言いくるめられてしまったけど、今回は違う。きっとプライドが高い貴方はそんな約束はしていない、なんて言えない。





「まるでこうなることを予測していたようだな」


『まさか。貴方が棗を任務にやらなければ、こうなることはなかったです』



そうすればアリスを失うこともなかったけど、またみんなと一緒にいられることもなかった。どっちがよかったのかは分からない。だけどこれもきっと運命。






「しかしお前は非アリスになったからこの学園を去ることになる。それからも約束は続いていくと思っているのか」



『いえ、けしてそんなこと思っていません。だから保険を掛けさせてもらいました』




私は後ろに隠し持っていた蛍特製のマイクを出す。その声は屋上以外の学園中に響き渡る仕組み。






『今の発言は学園の先生や生徒に届いています。だからこれを聞いている人たち全員が私の証人です』



グッと初校長が悔しそうに下唇を噛んだ。そして流石だな、と小さく呟いてクルリと後ろを向いた。






「これから名無しさんが学園を出て行く手続きをする。出ていくのは今日でいいな」


『構いません』



私の返事を聞いてから初校長だけが姿を消した。続いてペルソナも消そうとした時、私は言いたかったことを思い出して慌てて叫んだ。





『待って、ペルソナ!』



ペルソナがピタリと止まる。よかった、間に合った。ペルソナにこれだけは言いたかったの。





『棗を病院に運んでくれてありがとう』



どんな成り行きでそうなったのかは分からないが、お礼が言いたかった。彼の顔は仮面の下に隠れていたまま、姿を消したから表情が読めなかったが、多分伝わったと思う。そうだったらいいな。




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