スターダスト

□溺れるほどの愛を君へ
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名無しさんが学園を去って数ヶ月。俺たちには普通の日常が戻ったが、名無しさんがいない教室はどこか寂しさを感じる。あいつの存在は本当に大きかった。もちろん俺の中でも。






「なー、棗。名無しさんから手紙きた?」




かなりの頻度で水玉がそう聞いてくる。しかし名無しさんから手紙はきていない。忘れているわけじゃないはず。きっと慣れない土地で忙しいんだろう。そうじゃなきゃ手紙がこない理由がない。






「はーい、みんな!席ついてね」



いつもに増してテンションが高いナルが教室に入ってきた。うぜぇ、と思ったけど次の言葉でそれはなくなった。






「名無しさんちゃんから御手紙が届いてます!」



ナルが手紙らしきものを高く上げるとクラス中から湧き上がる歓声。学園を去ってなお、あいつの人気は健在だ。





「誰宛かというと…」



ナルが手紙を持ったままゆっくりと歩き出した。そして俺の席で止まる。ニヤニヤとしているのが気に食わない。そしてようやくそいつの手から俺へと手紙が渡った。





「棗くんとみんなへでした!」



水玉がでかい声でブーイングをしていたが、俺のところにくるのは当然の結果だろう。とりあえずみんなへとも書いてあるのでその場で封を切った。
中には便箋が二枚。パラリと開けると一枚は俺宛ともう一枚はみんなへと書いてあった。俺はみんなへと書いてある方を隣に座っているルカに渡す。




「見ていいの?」


「ああ」


「ルカぴょん、読んで!」



水玉の発言に驚いていたルカも水玉の押しに負けたのか手紙をゆっくりと読み始めた。






「みなさん、お元気ですか。私は元気です。学園を去ってからあっという間に数ヶ月。今でも夢みたいな日々だったなって思い返しています。いろいろなことがあったけど全部がいい思い出で私の心の糧になっています」



誰1人として喋らずにただただルカの声に耳を傾けている。みんなが各々名無しさんの手紙を待ち望んでいたんだ。






「知らない異国の地での生活は思っていたよりも大変で、狭い籠の中だけど全てが整っていた学園と広い世界の中で整えていかなくてはならない生活の違いに戸惑ったりしました。言葉の違い、食の違い、生活さえも違います。この間ようやく出来た友だちと海を見に行きました。初めて見た本物の海は美しく無限に広がっていて学園を出て改めて自由になったと感じて涙が出ました」



名無しさんが海見ながら涙を流している光景が目に浮かぶ。俺が以前見た海と名無しさんの見た海の見方は違うんだろう。





「私はみんなのことを思い出しながら生きています。次会うときはみんなが学園で成長しているように私もこの生活で成長していたいです。そしてみんなが堂々と学園を去るときに私も堂々と会いに行けるように…。これからもみんなが笑顔になれるよう祈っています」




ルカが読み終えても誰も話さず、たまにはなをすする音だけが教室中に響く。名無しさんに会いたい、誰かがボソッと呟いた。その言葉にみんなが頷いた。






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