short story book
□『もしも、なんて言うな』
1ページ/1ページ
『烝…』
シンとした屯所の一角
長い髪を1つに結った女が男の名を呼ぶ
女の名前は葵
監察方である山崎烝の親戚で、新撰組唯一の女隊士だ
そんな葵が立っている廊下に面した部屋の襖が開く
「葵? どうしたんだ?」
怪訝そうな顔をしながら、葵を部屋に招き入れる烝
葵は中に入り襖を閉めると、ばっと烝に後ろから抱き付いた
烝はもう慣れているようで顔色ひとつ変えない
『明日からの任務、今までで一番危険なんでしょ?』
声色から、寂しさや辛さが伝わってくる
「心配か?」
葵とは裏腹に、烝の声色は変わらない
しかし、親戚であり付き合いの長い葵には僅かな変化ですら分かる
それに葵と烝は恋人だ
お互いの事は知り尽くしていると言っても過言ではない
『心配だよ…。もしも烝がって考えると…っ!!』
そう言った瞬間、葵の口は烝の口によって塞がれていた
『っ/// 烝??』
顔を赤らめながら言う葵
「俺が葵を置いて死ぬとでも?」
『ないとは限らないでしょう?』
少し怒気を含んだ声の烝
それに言い返す葵
「葵だって沖田さんといつも危険な場所にいるだろう?」
『そうだけど…!!』
「それに、葵だって今回は危険な戦だろう?」
『そうだけど…。でも、烝は単独任務なんでしょ!?』
目尻に涙を浮かべる葵
「ああ。だが、葵は俺の事が信じられないのか?」
『信じてるよ…。でも、もしもっ…!!』
再び葵の口は烝の口によって塞がれた
触れた唇から、烝の想いが葵へと伝わる
その想いは、"愛してる"
だから、
もしも、なんて言うな
(好きだ、と伝えたあの日から)
(もう一生お前を離さない)
.