short story book

□『もしも、なんて言うな』
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『烝…』

シンとした屯所の一角

長い髪を1つに結った女が男の名を呼ぶ

女の名前は葵

監察方である山崎烝の親戚で、新撰組唯一の女隊士だ

そんな葵が立っている廊下に面した部屋の襖が開く

「葵? どうしたんだ?」

怪訝そうな顔をしながら、葵を部屋に招き入れる烝

葵は中に入り襖を閉めると、ばっと烝に後ろから抱き付いた

烝はもう慣れているようで顔色ひとつ変えない

『明日からの任務、今までで一番危険なんでしょ?』

声色から、寂しさや辛さが伝わってくる

「心配か?」

葵とは裏腹に、烝の声色は変わらない

しかし、親戚であり付き合いの長い葵には僅かな変化ですら分かる

それに葵と烝は恋人だ

お互いの事は知り尽くしていると言っても過言ではない

『心配だよ…。もしも烝がって考えると…っ!!』

そう言った瞬間、葵の口は烝の口によって塞がれていた

『っ/// 烝??』

顔を赤らめながら言う葵

「俺が葵を置いて死ぬとでも?」

『ないとは限らないでしょう?』

少し怒気を含んだ声の烝

それに言い返す葵

「葵だって沖田さんといつも危険な場所にいるだろう?」

『そうだけど…!!』

「それに、葵だって今回は危険な戦だろう?」

『そうだけど…。でも、烝は単独任務なんでしょ!?』

目尻に涙を浮かべる葵

「ああ。だが、葵は俺の事が信じられないのか?」

『信じてるよ…。でも、もしもっ…!!』

再び葵の口は烝の口によって塞がれた

触れた唇から、烝の想いが葵へと伝わる

その想いは、"愛してる"

だから、


もしも、なんて言うな


(好きだ、と伝えたあの日から)
(もう一生お前を離さない)


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