知らぬが仏

□第一話
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「正邦。お弁当一緒に食べよう」


無駄に整った顔に笑みを浮かべて俺の机の前に立つ男、市原啓吾。
片手には弁当。

俺の幼なじみで、クラスは隣だが毎日お昼になるとやってくる。

「あー、うん」

俺は啓吾に適当に返事をして、バックの中から弁当を取り出した。

「今日は天気良いから屋上で食べようよ」

これまた嬉しそうに誘ってくる啓吾。
周りに咲き誇ったバラの幻覚が見える。
イケメン滅べ。

「あー、でも花粉とか飛んでるし」

やんわりと拒絶しといた。

別に花粉症なんかじゃないが、こいつと屋上には行きたくない。
勘弁してくれ。

「あ、ごめんね。いい天気だし、正邦喜ぶと思ったんだけど迷惑だったね」

啓吾は申し訳無さそうに整った眉を下げた。
そんな表情までもイケメン。滅べ。

それを見ていた俺のクラスメート(主に女子)から不満の声が挙がった。

「啓吾君かわいそう」
「ひどいねあの地味男」
「構ってもらってるからって調子乗ってんなよまじうざーい」

どうしてここまで言われなくてはいけないのだろうか。
あれか?俺がイケメンじゃないからか?

今は春真っ盛りで花粉症には辛い時期だ。花粉症じゃないけど。
花粉症の人にとって、この時期に屋上で昼休みを過ごすなんて自殺行為だ。花粉症じゃないけど。

クラスの女達は平々凡々な俺が啓吾といるのが気に食わないのだろう。
世知辛い世の中だ。

俺はずり落ちた眼鏡を中指で上げ、溜め息を一つ吐いた。


「わかったよ。屋上行こう」

もう面倒くさい。
行きたくなかったけど、この場にもいたくない。
居心地が悪い。

「本当?花粉症大丈夫?」

犬みたいにショボンとしていた啓吾が心配そうに見てくる。
さながらゴールデンレトリバーみたいな感じ。

「大丈夫だから。早く行こう」

「わかった」

俺はさっさと席を立って教室から出た。

啓吾は俺のクラスメートに笑顔で挨拶してから付いて来た。
キャアキャアとはしゃぐ女子。
世知辛い。
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