*other*
□甘い口づけをかわす(アキ夏)
1ページ/1ページ
「すっ、好きだ!付き合ってくれ!」
「グワッ」
この前突然アキラに告白された。
驚いた。俺も好きだったから。でも年も離れてるし、何て言ったって俺たちは男同士だ。まさかアキラも俺と同じ気持ちだとは思ってもみなかった。
叶うはずがないと思っていた俺の恋。それは突然叶ったのだ。
俺はタピオカに全てを持っていかれて落ち込んでいるアキラに笑いかけて、いいよ。と一言だけ答えた。
これが俺の精一杯だった。
付き合ってみて、アキラは俺に全ての感情をさらけ出してくれていることがわかった。
ハルやユキと一緒にいるときには見せないような優しい笑顔。甘えた声。口づけするときに見せる真剣な表情。どれも俺にだけ見せてくれているのだと思うと優越感にひたることすらある。
でも……俺は?ちゃんとアキラに俺の気持ちが伝わっているのだろうか。俺は素直じゃないから、アキラに愛想つかされるのではないか。
アキラと付き合って、そんな不安がグルグルと頭の中を支配するようになっていった。
「夏樹……その、最近どうした?」
休みの日アキラに呼び出されたと思ったら、突然そう聞かれた。
「どうしたってなにがだよ。いつも通りじゃん。てかアキラ、タピオカはどうしたんだよ。」
違う。こんなことを言いたいんじゃない。アキラを不安にさせている。ちゃんと素直に自分の気持ちを伝えなければ。と考えれば考えるほど何も言えなくなる。そんな自分がもどかしくて嫌になる。
「夏樹と二人だけの時に聞きたかったからな。そうか……。いつも通りならいいんだ。」
アキラは少し表情を曇らせた。そして俺に背を向ける。違う。アキラにそんな表情をさせたい訳じゃない。ちゃんと言わなきゃ。自分の気持ちを。
「……っ。ちっ、違う……」
そう俺が呟くとアキラはどうしたという表情でこちらを振り向く。
「違うんだ……」
言葉につまる。言葉が出てこない。
「夏樹。何が違うんだ?」
アキラが優しい声で俺に問いかけ、優しく俺の両手を握ってくれる。
「おっ…俺は……」
心臓が尋常じゃないくらい速く動く。止まれ、止まれよ!なんだよ!俺の心臓ってこんなに速く動くのかよ。
触れている両手からこの心臓の音が聴こえてしまいそうで、恥ずかしくてアキラの目を見ることができない。
「夏樹?」
アキラが心配そうに俺の顔を覗き込む。
目が合うとさらに俺の心臓の鼓動が速くなる。俺はとっさに目をそらしてしまった。それでも心臓の鼓動はさらに速く、速く。
「あっ、アキラ!」
心臓の音を消すように叫ぶ。大好きな人の名前を。
「おっ、俺は……」
ちゃんと素直になるんだ。自分の気持ちを伝えるんだ。
「俺はさ……。アキラのことが……好きだよ。」
どんどんと小さくなる声。でも言えた。自分の気持ちを伝えることができた。
でも、アキラの反応がない。
俺は恐る恐るアキラの方を見ようとしたら、いきなりアキラに抱きしめられた。
「あっ、アキラ?」
「今はダメだ。」
「えっ?どういう……」
訳がわからない。ダメだってどういうことだよ。でも抱きしめられてるんだから嫌われてはないってことか?何なんだよ……
「アキラっ!」
俺はアキラの腕をほどこうとした。でも、これが大人と子供の力の差なのか全然ふりほどけない。
「初めてだ。」
アキラが俺の耳元で呟く。少し低音のアキラの声にどきっとする。
でも、何が初めてなのか俺にはよくわからなかった。
「なっ、何が初めてなんだよ。てか、はなせよ!アキラ!」
本当に何がなんだかわからない。なんでアキラは俺のことをはなしてくれないのか。何が初めてなのか。頭がおかしくなりそうだ。
「初めてなんだよ。」
アキラがさらに俺を強く抱きしめて話始めた。
「初めてなんだ。夏樹が俺のことを好きって言ってくれたのが……。」
「えっ……?」
アキラに言われてはっとする。そうだ。俺はアキラに『好き』というたった二文字の言葉すら素直に言えていない。アキラは俺にたくさん言ってくれていたじゃないか。
そう思っていたら、アキラが俺を抱きしめていた腕をほどき顔を見合わせる。
「アキラ……」
びっくりした。アキラが今まで見たこともないような顔をしていたから。
「ははっ。おかしいだろ。夏樹に好きって言われただけでこんなに顔が熱くなるんだな。」
そう言ったアキラの顔は真っ赤で、年上だけど可愛いとすら思えるものだった。
「アキラ顔真っ赤だぞ。」
笑いながら言う俺に、夏樹のせいだ、と呟きアキラは優しく口づけをした。
こんな表情を見ることができるのなら、アキラが嬉しく思ってくれるのならもっと素直になれるように努力しようと思った。
素直になれた後にかわした口づけは、いつもよりも少し甘い気がした。
END
2012.08.25すずこへ
Happy Birthday