*other*

□君の全てを(猿美)
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俺以外と喋るな。俺以外に触れるな。俺以外を見るな。俺以外に心を開くな。君の全てを俺に……。


「みーさーきーくん!」

俺は吠舞羅の一員である八田美咲を見つけるやいなや、彼を彼が一番嫌がる呼び方で呼ぶ。

「んだよ、猿!俺の前に現れるなよ。」

と、彼がいかにも嫌そうな顔でこちらを見る。

嫌そうな顔でもいい。満面の笑顔が自分に向かなくてもいい。彼が俺を見ていてくれさえすればいい。だから俺はあえて彼が一番嫌がる呼び方で呼ぶ。そうすると彼はこちらを向いてくれるのだから。


俺は八田美咲が好きだ。勿論二人とも男だということは分かっている。そして、彼も俺と同じ感情を俺に持っている。でも、彼と俺とでは決定的に違う想い。それは、彼を自分だけのものにしたくて仕方がない。俺だけの所有物にしたい。というもの。
昔は俺も吠舞羅に属していた。でも、そこで彼が赤の王に向ける眼差しを見ることに耐える事ができず、俺は吠舞羅を抜けた。彼は今でも俺が裏切ったと思っている。
その事で彼は俺と少し距離を置くようになり、俺に対する感情が愛情よりも憎しみが勝るようになっていった。
でも、愛情よりも憎しみが勝っていてもいい。彼の感情を俺だけが支配できるのだから、こんなにも嬉しいことはないのだ。


「おい!猿!今日は何しに来たんだよ!」

少しぼーっとしてしまった俺を彼が呼ぶ。

「いや、特に用事はないけれど美咲くんの事が気になってね。」

彼の呼ぶ声ではっとし、彼の呼びかけに応える。

「あ?なんだよそれ。意味わかんねぇ。用がないならさっさと俺の前から消えろよ。」

真っ直ぐな彼の視線。今、彼の瞳には俺しか映っていない。そんな些細なことでも彼を独占できるのが嬉しくて。彼に鎖をつけてどこにも行けないように、俺の傍から離れられないようにしたいと思ってしまう。もう少し彼を独占していたい。

「では、用事を作りましょう。ここで戦うということで!」

こんな方法でしか彼を繋ぎ止めることができない。彼の全てを俺に向けさせることができない。

「やってやろうじゃねぇの!」

と二人とも臨戦態勢に入った瞬間、

「八田さん!何やってんすか。もう行きますよ!?」

と吠舞羅のメンバーの声が聞こえた。すると彼はちっ、と小さく舌打ちをして、分かった。今行くと呼ばれた方に体の向きを変え、俺の前から立ち去ろうとした。

あぁ、また彼を独占することができなかった。俺はこんなにも彼のことを愛しているのに、彼はいつも俺以外の何かを見つめている。俺だけを見ていてはくれない。そう考えるだけで言いようもない哀しみが込み上げてくる。
すると、彼が俺の目の前に走ってきて、そっと俺の耳元で囁き、また仲間の元へと去っていった。
その言葉を聞いて、俺はどうしようもなく嬉しくなると同時に、さらに彼の全てを俺のものにしたくなった。

『俺はお前を許した訳じゃねぇ。でも、そんなお前を俺はまだ好きだ。だからそんな悲しそうな顔すんなよ。』

そんなこと言われたら、彼の体、思考、感情、彼のあらゆる全てのことを支配したくなる、俺のものに、独占したくなる。
そう、これは俺が悪いんじゃない。こんなことを俺に思わせてしまう彼が悪いのだ。

絶対に彼を離さない。他の誰かのものになんてさせない。そのために俺は手段は選ばない。


彼の全てを俺のものに……。

END

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