殿、戦です
□殿、逃げないで下さい
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―戦国時代、第六天魔王と恐れられた織田信長。
そして、今から戦が始まる…………のだが、その魔王の姿はどこにも見当たらない。
家臣達は右往左往。
「殿ーっ!!どこに行かれたのですかーっ!?」
そして、その混沌とした中を声を張り上げながら走り回る人影がひとつ。
「とっとと出て来やがって下さーい!」
敬語には程遠い言葉を発しながら、本陣を駆け抜けるのは齢15くらいのなかなか整った、中性的な顔立ちの美少年だ。
名は森蘭丸。
織田信長の小姓だ。
「あ!いた!殿ーっ!!」
前方に、精悍な顔つきの美青年が座り込んでいる。
蘭丸に名を呼ばれると僅かに肩を震わせる。
「ら、蘭!どうしてお前がここに…!」
「何言ってんですか?
今から戦だって言うのに、殿が居なくなったから探しに来たに決まってるでしょう。ほら、戻りますよ!」
そう言うと蘭丸は問答無用でズルズルと信長の腕を引っ張る。
「皆さーん!連れてきましたー!」
蘭丸は未だに信長の腕を引っ張りながら、混沌とした自分達の軍に戻る。
が、まだ混乱が解けないのかオロオロしている。
「狼狽えるな!!お前らだけで勝てると思ったというのに、俺が居なくなっただけでこの様か!?」
信長はさっきとは打って変わって堂々と兵や家臣達に渇を入れている。
「おぉ!!流石殿!我らの事を考えてのご行動をして下さるとは!」
だが、忘れてはいけない。
戦の最中に大将が失踪して狼狽えない軍はどこにも無いだろう。