格納庫

□零の翼2
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流川は何時ものように、ジョギングに出かける為に自宅の玄関を開けた。コースは決まっている。あの日以来変わっていない。自宅庭でストレッチを入念に行い、走り出した。今日も空は快晴で積乱雲が遠くに見える。所々に薄くたなびく雲が見え、何事にも無頓着な流川さえも初秋の気配を感じる事が出来るのだった。閑静な住宅街を抜け海に抜ける道のりをひたすら走る。浜辺に出れば彼が居るはず…いや必ずいるのだ。あの日から何時も走っていたコースを変え、彼の居る浜辺が折り返し地点となっている。申し合わせた訳でもないのにそこには彼がいて、流川はその姿を確認すると何時も躯中の血が音を立てて不規則に駆け回るのだった。そして決まった距離を開け彼の前に立つと決まって『わざわざ毎度俺に見せつけに来てくれて嬉しいよ…』と本気で憎まれ口を叩かれた。確かに彼が入院した時からコースを変えたのは事実だが、しかしリハビリを開始し外に出る事が出来るようになる以前から彼のいる病院の浜辺を折り返し地点にしていたのだ。早くあの真紅の髪を持つ大きく美しい翼の持ち主、桜木花道を迎えに来ていたのだった。
そして今日も浜辺に出ると桜木の姿を認めて、流川はまた全身が心臓になったような錯覚に陥りながら桜木の前に走りよった。変わらない距離を保ちつつ変わらないセリフを口に乗せる。
「…どあほう…」
変わらない瞳が流川の瞳を射ぬいて名を呼ぶ。
「流川」
今日も変わらない応酬と二人のこの距離。決して遠くはないし心地も悪くはない。けどこれが心の距離ならば、暗闇の砂漠にいるように流川は感じる。桜木が見せる蜃気楼のようだと思わずにいられなかった。
…next…

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