格納庫

□零の翼3
2ページ/2ページ

桜木は優しく流川のその手を膝の上に戻してやった。

「お前、こんな処でこんな事してる場合じゃないだろ全く…」

「だったらお前の言う日常って何だよ?」

流川にしてみれば変わらない日々だ。湘北に入って桜木を始め、仲間達と練習とゲームの日々。たまたま怪我をして戦線離脱した桜木をコートに戻して頂点を目指して日々を過ごそうとする事のどこが日常でないと言うのだろうか。流川の胸中に今度は沸々と怒りの波が立ちはじめた。

「俺に構うなって事。非日常どころか、俺が戻ればマイナススタートだ」

「テメー、何考えてやがる?何ブレてんだ」

流川は怒りと不安が交差し始めた。残暑のせいだけではない、冷めたじっとりした汗がこめかみに現れるのを感じた。

「ブレちゃいねぇし俺はやる事やるだけだ。バッサリ感満載だけどな」

まさかと流川は思う。桜木は翼を無くしたと思っているのだろうか。馬鹿な!今は傷ついた翼をただ畳んで休めているだけなのに。流川には桜木の背中の翼を何時も見ていた。努力だけではどうしようもない、人々を魅入らせ惹き付け、或いはその持って生まれた素質に絶望感さえ与える桜木の翼はそう簡単に散る訳がないと流川は信じて疑わなかった。

「お前、もう無理とか思ってんじゃねぇだろうな、そんなタマか」

「別に無理とか諦めとかじゃない。お前も解ってんだろ。予選勝ち抜いてインハイで山王に勝ったからって、力付いたなんてお前も皆も思ってねぇよな?改めて弱いの知ったに過ぎねぇ。基礎あるお前らが一から地力つけてかなきゃなんねーのに、基礎が無い翔べない俺は足手まといだ。これのどこが日常的なんだ。解んねぇなら二度と俺の前に現れるな!」

桜木は一気に言葉を吐き出した。ただ流川の瞳を見つめて、流川も桜木の瞳を見た。そこには諦めも自虐もなかった。しかし改めて感じる桜木の成長スピードはバスケットだけでなく、精神論や勝負論、客観的大局を捉える能力は遥かに流川を越えていると、自分の幼さを突き付けられた。それ故に益々流川の想いは激しく競り上がり、それ故に確固たる決意が奔流となって流れ出そうとしていた…。

『だったら俺の覚悟も知りやがれ…!』


…next…
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ