あたしの願いが叶うなら

□5話
4ページ/8ページ

5-3

まぶたを開ければ、広がる景色は先ほどいた場所じゃなかった。
現代とは違った、テレビでしか見れない昭和の町並み。

「ここは…?」

ここ、明らかに現世だよね?
もしかして冬獅郎が生前住んでいた町かもしれない。

「どこにいるんだろ…」

周りを見ても、家が広がっているばかりで冬獅郎に関する手掛かりはなし。

「なんか指令がアバウトなんだよね。
行ったら分かる、なんて」

困り果てていた時、ふと、空を見上げれば。
宙であぐらをかいて新聞を広げている奴がいた。
全身黒づくめ━━━死神だ。

「すいませーん!!」

死神のオッサンは、チラッとあたしを見下ろしただけで、また新聞に視線を戻した。
無視かよ!

「す・い・ま・せーーん!!!」

お腹から声を出して叫ぶが、オッサンは無視するだけだった。
イラッ、と心に小さな憎しみが生まれる。
無視するなら、こっちから行ってやるまでだ。

イメージするのは一瞬であのオッサンのところに移動する自分。
頭に浮かんだのは『瞬歩』という文字だった。
瞬時にオッサンと距離を詰める。
分かった、あの頭に浮かぶ文字の意味。
死神の技なんだ。
本当に“神魂石”って何でも有りみたい。
生身で宙に立つこともできるなんて。

「人が声かけてるのになんで無視するの?」
「てめェどこのヤツだ?
いいか、俺は今仕事中なんだよ。
空気読めよ」
「はぁ? 仕事中?!」
「見て分からねぇか?
俺ぁ、ここの担当してんだよ。
仕事の邪魔すんなよあっち行けや」

仕事中?
パトロールにも行かないで新聞読んでることが?
ルキアみたいに、整(プラス)を魂葬したり、虚を倒したりするはずじゃないの?

「あんたこの町を担当してる死神でしょ?!
なんでこんな所でのんびりしてるのよ!!」
「チッ、うるせぇガキだな。
俺の仕事にケチつけんじゃねぇよ。
適度にやってりゃそれで良いんだよ」

開いた口が塞がらない。
このクズ野郎一回殴ってやろうか、と思ったが、そんなことをしても意味がないことに気づいた。
コイツが懲りないとどうしようもない問題だ。

「でも、現に今虚が…」

現れたらどうするんだ、と言おうとした時、背筋を物凄い悪寒が走っていく。

「これは………虚!?」

地上を見下ろせば、町並みが広がっている。
感じる霊圧に、どの場所にいるかを瞬時に把握できた。
数は一体。
でも、感じる霊圧は尋常じゃない。

「ちょっと!
これ普通の虚じゃないって!!
早く倒しに行かないと誰かが殺されちゃう!!!」

オッサンは面倒くさそうな仕草で、首にかけたボタンを押した。

「尸魂界へ救援要請。
えー、こちらは白杉野担当・藤代だ。
現世定点562番、南西1092点にて強大な虚の襲撃を受けている。
ただちに救援に赴いてほしい、以上」

またボタンを押し、オッサンは大きなあくびをした。

「ちょっと!!
助けを呼んだだけで、あんたは何もしないの?!」
「うるせぇ。
助けに行きたきゃ助けに行けや。
まぁ、お前に助けられる力があるんならな」

馬鹿にするような下品な笑み。
気づけばオッサンの顔に拳を叩き込んでいた。

「あんたみたいなのがいるから虚のせいで泣く子供ができるんだよ!!」

オッサンをそのままに、あたしはすぐに虚の元へ向かった。











次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ