あたしの願いが叶うなら

□5話
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ビリビリと肌に伝わってくる霊圧は、その虚の強さを物語っていた。
しかもデカイ蛇。
行ってみたはいいけど、まだ虚と対峙することはできなかった。
どんなに念じても刀が出せないからだ。
こんな時に戦うための手段が無いなんて…。


『行けば分かる。
お前なら見抜けるはずだ』



なにが行けば分かるよ。
曖昧すぎるんだよっ。
でもどうしよう、このまま放置なんてできないし。

「…そうだ!
あの虚の身動きを封じればいいじゃん!!」

死神の救援を待てばいいんだ。
どうすればいいか答えが出て、あたしはすかさず虚の前に出た。
敵と見なしたのか、虚は空気を裂くような咆哮を上げた。
凄まじい威圧感に逃げたくなる。

「……え?」

対峙して違和感に気づく。
眼孔が、霊圧が、今まで見てきた虚と違っていたからだ。
テッサイが一護に使用した動きを封じる鬼道を使おうとしたが、違和感が勝ってイメージすることができなかった。
わずかな隙が生まれ、そこを虚が突いてきた。
太い尾を鞭のようなしならせ、あたしを地面へと叩きつける。
息をする暇もなく、今度は尾で身体を締め上げられた。
ミシミシと嫌な音が聞こえてくる。
息ができなくて、痛みで鬼道をイメージすることすら出来ない。
だけど、虚の攻撃を受けたおかげで気づいた。
虚の奥底から、黒い渦のような魂魄にわずかな白い気配が存在していることを。

「あん、た、は…」

目を凝らし、凝視する。
黒い気配に塗りつぶされそうな白い気配の正体を。

「とう、し、ろう…?」

半信半疑のまま呟けば、白い気配が大きくなった。
まるで自分を取り戻したように。
虚がもう一度咆哮する。
身体を震わせる圧力を感じたけど、あたしには分かった。
助けて、って言ってる。

「破道の九十九、禁!!!」

叫んだと同時に、発動した鬼道が虚を拘束する。
締め上げから解放され、息苦しさで咳き込みながら酸素を取り込んだ。
虚へと視線を戻す。
待ってて、今助けるから。

「お願い。
あたしの中にいるんでしょう?」

世界の言葉が本当なら“神魂石”は今あたしとここにいる。

「ここにいるなら力を貸して!
あたし、この子を助けたいの!!」

途端、心臓が大きく鼓動し、胸の奥が燃え上がったように熱くなる。
唇を噛んで、ここにいることを強く意識し続けないと気を失ってしまいそうだ。
手のひらに力が集まってくるのを感じる。
周辺の空気は軋み、空間は凍りついたように硬直し、音という音が途絶える。
力が集束していくにつれ、身体は悲鳴を上げていた。
イメージするのは、黒い気配を粉砕する絶対の力。
直後、目の前にいた虚が粉々に砕け散った。
まるで、ガラス細工の置物を床に落としたように。

虚のいた場所には銀髪の子供が立っていた。
やっぱり冬獅郎だった。
糸が切れた人形のように崩れ落ち、反射的に駆け寄って抱きしめる。
よかった、ナイスキャッチ。
冬獅郎は気を失っていた。

「頑張ったね」

安心して肩の力を抜いた時、首筋に刃先を当てられた。
血の気が引く。
後ろにいる誰かの存在に、あたしは今やっと気づいた。


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