あたしの願いが叶うなら

□13話
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かわいい雑貨屋を織姫が見つけたらしく、学校の帰りに寄ることに決まった。
喜助さんの家とは正反対の方向の真柴という場所にあるらしい。

「たつきちゃんも一緒だったらよかったのに…」

残念そうに織姫は呟いた。
たつきちゃんは織姫の親友で、名前は有沢竜貴さん。

黒のショートカットで活発な女の子。
今日は用事があって帰らないといけないため、雑貨屋に向かうのは織姫とあたしの2人だけだ。

「どんなものがあったの?」
「えっとね、指輪とかシュシュとか、かわいいのがいっぱいあったんだよ!」

よほどいい店なのか、織姫は思い出したようにウフフと笑った。
道の途中には横断歩道。
赤信号のため、歩く足を止めた。

「春瀬ちゃんは何色が好き?
よかったらおそろいの買う?」
「いいねー! 賛成!
おそろいの買おうっ」

嬉しくてテンションは急上昇だ。
信号が青に変わり、歩き出す。
遠くに地名の書いた標識が見えた。
なんて書いてるんだろう?
目を細めるが、離れているためよく見えない。

「織姫、あの標識なんて書いて…」

織姫を見れば、彼女は横断歩道のまん中に立っていた。
どうしたんだろう。
何か落としたとか?
聞こえてきたのは耳障りな急ブレーキの音。
迫る車を視界の端でとらえ、気づけば身体が動いていた。
カバンを捨て、横断歩道へ飛び出し、織姫を突き飛ばす形で向こう側へ倒れ込む。
急ブレーキの音が通りすぎて、やっと呼吸らしい呼吸ができた。
そうだ、織姫!

「大丈夫?!
怪我なかった?」

何が起きたのか理解してないのか、織姫はポカンとあたしを見ていた。

「織姫! しっかりして!!」
「…あ!
ごめん春瀬ちゃん!
ボーッとしちゃって…!」
「大丈夫?
雑貨屋さんはまた今度にして今日は帰ろうか」
「え? せっかくここまで来たのに…」
「ダメだよ。
家帰って休まないと。
雑貨屋は有沢さんと行ける日にしよう、ね?」

織姫は納得いかない表情をしていたが、最後には頷いてくれた。

「立てる?
って! 足どうしたの?!
すごいアザになってるじゃん!!」

今気づいたけど、織姫の左足にアザがあった。
膝下から足首にかけて。
アザを指摘した途端、織姫は痛そうに顔をしかめた。

「いつの間に…。
どこでぶつけたんだろ…」
「これ、ぶつけたとかそんなレベルじゃないよ」

違和感がある。
アザ全体がくっきりしていて、なにより範囲が広すぎた。

「早く帰ろう。
あたしも織姫の家行くね」

嫌な胸騒ぎがする。
ここにいちゃいけない、と思った。

その胸騒ぎが現実になったのはたった数分後。
織姫の家を目指してから、やけに車の事故が多い。
ひかれそうになったり突っ込んできたり。
どれだけ気をつけても、これでもう3回目だ。
まるで、誰かの意思で事故が起こっているような。

「ありがとう。
私の家までついてきてくれて」
「当たり前だよ。
歩くのキツいでしょ?
織姫の家、もうすぐだよね?」

事故がひんぱんに起きている異変を織姫は口に出さなかったけど、多分おかしいとは思っているはずだろう。

進む先へと視線を戻し、耳に意識を向ける。
車の音はしないが、下駄の音が後ろから聞こえた。
振り向き、

「喜助さん?!」

近づいてくるのはなぜか喜助さんだった。

「春瀬サン学校帰りっスかぁ?」

初対面の織姫は喜助さんに向かってペコリと頭を下げた。

「あぁどうも。
春瀬サンの保護者をしてる浦原っス」
「あなたが春瀬ちゃんの!
井上織姫です、昨日友達になりました」
「ほほー友達に!
それは良かったぁ」

和やかな空気を壊すのは気が引けるけど、どうしても気になった。

「喜助さんはどうしてここに?」
「用事があって出かけてたんス。
いやぁ、まさか春瀬サンに会えるとは思いませんでしたよ。
お二人はどちらに向かってます?」
「織姫の家に。
あの、喜助さん。
さっき織姫が足をぶつけてしまったみたいで…」

説明し、喜助さんは織姫の足を確認して息をのんだ。

「…これはひどい」
「やっぱりそうですよね」

不安そうに見つめる織姫に、喜助さんは安心させるような笑みを浮かべた。

「大丈夫っスよ。
後でシップを貼りましょう。
アタシも一緒に行きますね」
「ありがとうございます喜助さん」

すごい。
喜助さんがいるだけで、心が軽くなったような。

不思議と、喜助さんが来てから事故はピタッと止んだ。











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