あたしの願いが叶うなら
□2話
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気づけば、視界に広がるのは天井だった。
寝起きでボンヤリした思考のまま、寝返りを打ってみる。
視界に入ったのはどこかの部屋だ。和室の。
和室?!!
驚きで飛び起きる。
「ここ……どこ?」
経緯を思い出そうとした時、ノックもなくふすまが開いた。
入ってきたのは眼鏡をかけた少年━━━雨竜だ。
幼い頃の。
「かわいい!! ちっちゃい!!」
思ったことがそのまま声に出た。
雨竜はムッとする。
「何ですかあなた。
いきなり小さいだなんて。
初対面の相手に向かって失礼じゃないですか」
「ごめんごめん。
だって本当にかわいいんだもの」
雨竜はあたしの言葉が気に入らないのか、ムスーッ!としていた。
かわいい顔が仏頂面で台無しである。
「あたしは七嵐春瀬だよ。
きみの名前は?」
仏頂面のまま、雨竜はふいっと目をそらした。
名乗ることが嫌なのか、間を置いて答える。
「石田………雨竜です」
「そう、雨竜ね。
よろしく。
あたしのことも名前で呼んでちょうだい?
お姉さんって呼んでもいいわよ?」
むしろ幼い雨竜にはお姉さんと呼ばれたい!
雨竜はお姉さんと呼ぶつもりはないのか、ムスッと黙り込んでいた。
まぁ、名前で呼ぶことを拒否しなかったから良しとしよう。
雨竜はちらりと視線だけを向けた。
「昨日のこと、覚えてますか?」
問いかけられてやっと思い出す。
禍々しく輝く複数の瞳。
そして、追われていた時の吐き気のする恐怖。
身体がブルッと大きく震えた。
「大丈夫ですか?」
脳裏に鮮明に浮かんだ昨日の出来事は、雨竜の声でフッと消える。
それでも恐怖はなかなか消えなくて、心臓の鼓動は嫌に速かった。
「覚えてるんですね」
「………うん」
「もう大丈夫です。
あなたを追いかけていた化け物はもういませんから」
「きみのおじいさんが助けてくれたんでしょう?」
どうしてそれを、と言いたげに、雨竜は驚きの表情で目を丸くさせた。
「見れば分かるよ。
だってきみの服、おじいさんとおそろいじゃない」
白い服。
確か、滅却師(クインシー)の伝統の衣装なんだよね。
「おじいさんはいる?」
「いいえ、ここにいるのは僕だけです。
師匠は今出かけてます」
「あ。
なんだそっかー…」
本当は直接あいさつとお礼を言いたいんだけどな。
「僕は飲み物を持ってきます。
ここにいて下さい。
絶対に安静にしてくださいね」
言うなり、雨竜は部屋を出ていってしまった。
安静にしろとは言っても…。
健康そのものだから、雨竜の言葉に困惑する。
ひとまず横になっておくか。
ごろんと転がり、寝返りを打つ。
部屋は静かで、今まで考えもしなかったことが浮かんだ。
「そういえばどうしてあたし…」
虚が見えたんだろう。
霊を見ることも、金縛りすらも体験したこともないNO霊感人間なのに。
この世界に来た影響だろうか。
そもそもどうしてトリップしたんだろう?
誰があたしをここに連れてきてくれたんだろう?
何のために?
それともただの偶然?
嬉しいけど、どこかすっきりしない。
「………考えても仕方ないか」
疑問はあるが、それよりも重要なのはここに宗弦さんが健在しているということだ。
小学生の雨竜を見るに、時間はそんなにないかもしれない。
宗弦さんが殺される日。
それはもしかしたら今日かもしれないんだ。
知ってるから何かしたかった。
だって雨竜がひとりになってしまう。
あんなに幼いのに。
あたしにできることがあるなら。
宗弦さんのそばにいたいと思った。
もし虚が現れても、あたしがいれば時間稼ぎになる。
多勢に無勢で殺されることもなくなる。
「行かないと」
ふとんを抜け、部屋を出る。
玄関はすぐそばにあった。
あたしの靴がきれいにそろえてある。
靴をはいて、外に出ようとした時にやっと気づいた。
「………そうだ。
どこにいるかあたし知らないんだった」
思い立ったらすぐ行動!な自分が嫌になる。
雨竜に、宗弦さんはどこにいるかを先に聞くべきだった。
靴を脱いで引き換えそうとした時、廊下に雨竜が立っていた。
お茶のペットボトルとコップを持ち、目を細めて唇を結んで。
怒りのオーラをまとっているように思えた。
「どこに行くんですか?」
「すみません」
低くてゆっくりした声に、あたしは一番に謝っていた。
小学生なのに、怒らせちゃいけないと思わせる雨竜をすごいと思った。