あたしの願いが叶うなら
□3話
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流魂街には東西南北それぞれに1から80の地区がある。
1が一番治安が良くて、78なんてのはまあ、最低のさらに下だ。
そういうゴミ溜めみてえな街で、俺達は家族のように身を寄せ合って生きていた。
必要なものは盗まないと手に入らない。
それが当たり前だと思ってた。
だけど今日は厄介な相手から水を盗んじまった。
いつもは逃げ切れるのに、今日はいつまでも降りきれない。
鎌を振り回していて、捕まればどうなるかは簡単に想像できた。
俺達の中で一番背の低いタツが水の入った袋を落としてしまった。
拾おうと、タツは走るのを止めてしまう。
「タツいい、逃げろ!!」
迫り来る奴らを見てしまい、足がすくんでしまったんだろう。
俺の言葉にタツは動けなかった。
捕まる! そう思った時、タツの前に飛び出したのはルキアだった。
あっという間に捕まってしまう。
「何をしている!!
早く逃げろ!」
動けない俺たちにルキアは怒鳴るが、逃げられるわけがない。
見殺しになんてできなかった。
もうダメだと思った時、奴らの上に誰かが落ちてくる。
「ぐわぁ!!」
「ヘブッ!!!」
奴らは全員運良く気絶し、下敷きとなったルキアが這い出てくる。
俺達は落ちてきた人間を恐る恐る見下ろした。
女だ。
気を失った。
俺達はお互いを見合い、喜べば良いのか戸惑えばいいのか分からなかった。
「…ひとまず連れて帰ろう。
ここには置いておけん」
ルキアの提案に、俺達は力を合わせてそいつを運んだ。
女だから軽いわけではなく、自分達の寝床まで運ぶのに苦労した。
そいつを寝かせた後、ルキアがひたいの汗を拭う。
「気を失ったままだな。
目覚めるまで外で待とう」
「あの女の人…。
一体何なんだろねぇ…」
外に出ながら、そう呟いたのはシゲだった。
髪の毛に隠れた瞳は心配よりも戸惑いのほうが強い。
「ルキア、本当に大丈夫なの?」
疑問を口に出したのはワタル。
ルキアは頷いて答えた。
「大丈夫だ。
怪我らしい怪我は見当たらなかった」
むしろ、俺にとってはあの女の怪我よりも素性が気になった。
本当に、あの女は何者なんだ?