あたしの願いが叶うなら
□4話
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「ん………っ」
身じろぎと共に、恋次は閉じていた瞳を開く。
覗き込めば目があった。
「おはよう恋次。
具合はどう?」
寝起きでボンヤリしていた恋次は、無理に動いちゃいけないことをあたしが伝える前に飛び起きた。
腹部を手で押さえて苦痛に顔を歪める。
「ほら、横になって」
恋次の背中を支え、横にさせる。
状況を把握しようと、恋次はあちこちを見回した。
「俺、どれだけここで寝てたんだ?
傷がほとんどねぇ…」
その疑問に答えたのは、タツ達の様子を見ていたルキアだった。
「春瀬が薬を持ってきたんだ。
まだ半日しか経っていないぞ。
もっと眠っておけ」
「薬…?
そんな貴重なモンどこの地区から!?」
「いやぁそれが…どこの地区か聞くの忘れちゃって」
「薬なんてここらにあるわけないだろ!
どこまで行ってきたんだよ…!」
怒鳴りはするものの、恋次の声は涙ぐんでて震えていた。
「俺…お前のことめちゃくちゃ言ってたのに…。
なんでだよ…!」
顔を両手で隠しているけど、恋次の声を聞けば泣いていることが分かった。
理由を聞かれたら少し困ってしまう。
「なんで、か…。
じゃあ恋次。
もしルキアが大怪我したら、恋次も何とかしたいと思うでしょう?
それと同じだよ」
恋次は顔を隠したままだった。
泣き顔見られたくない、ってやつだよね?
なら一度外に出たほうがいいかな。
腰を上げた時、恋次がボソボソと呟いた。
「ん? なに?」
「春瀬」
「うん」
両手をどけ、恋次は涙で顔をぐちゃぐちゃにしたままあたしを見た。
「俺が悪かった。
ありがと……な」
そしてすぐ顔を隠した。
なんかすごい可愛いんだけど!
嬉しくて、自然と顔がにやけてしまう。
「どういたしまして」
「私も礼を言いたい。
春瀬がいなかったらきっとここに恋次達は戻ってこれなかった」
ルキアも涙ぐんでいた。
あんなにボロボロになった仲間を見るのは初めてだから、恋次と話せて安心したんだろう。
ルキアに近づき、抱きしめる。
「ルキアも頑張ったね」
背中をポンポン叩けば、ルキアはギュッと抱きしめ返してくれた。
癒されるなぁ。
足の痛みとか全部消えてしまう。
幸せだと思っていた時間はすぐに壊れた。
凍りつくような悪寒が背中を駆け上がったからだ。
すぐそばに虚の気配を感じる。
本当に近かった。
ここに来ると思ってしまうぐらいに。
「春瀬?」
ルキアはあたしの異変に気づいたようだ。
「ごめんルキア。
あたし、行かないと」
「どこに行くのだ?
何があったんだ…?」
ルキアは表情を不安で曇らせ、あたしを行かせまいと腕を掴んできた。
今が緊急事態だってこと、あたし、隠すのが下手だな。
「恋次達にひどいことした奴ら、いたでしょう?
同じような奴がこの近くにいるんだ。
追い払ってくるだけだから」
「本当か?」
あたしの嘘が下手なのか、ルキアが鋭いのか。
「うん、大丈夫だよ。
あたし、強いから。
ルキアだって知ってるでしょう?」
大丈夫だって思わせないと。
心配かけさせたくなかった。
ルキアの目を真っ直ぐ見つめる。
「あたしを信じて」
卑怯な言い方だ。
ルキアは戸惑いつつも手を離してくれた。
「行ってくるね。
ちゃちゃっと終わらせて帰ってくるから」