あたしの願いが叶うなら

□5話
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気が付けば立っていた。

「あれ…?」

世界の様々な景色の写真を切り、統一性を持たずに貼り合わせたような景色がずっと向こう側まで広がっている。

「ここどこ?
あたし寝てたはずなのに…」

あ! もしかして夢の中か。
頬を掴んでひねれば痛くて、そこが夢じゃないことがわかった。

『おはよう。
それともこんばんは、か?』
「うわぁ!!」

不意打ちすぎて心臓が飛び出した。
見れば、声をかけたのは鏡に映したようにそっくりなあたし。

「ドッペルゲンガー?!!」
『ちげーよ』

即答するもう一人のあたしの声は、よく聞けば男の声だった。

『俺の名前は世界』
「“世界”?
それって芸名じゃないよね?」
『これが俺の名称だ。
ここを管理してる存在の、な。
俺に肉体は必要ないが、お前が来るから姿を借りさせてもらった』
「どうしてわざわざあたしを…」

鏡に映っている自分がいきなり喋り出す感覚だ。
気味悪いし落ち着かない。

『なんだ気に入らないのか?
じゃあお前が見ていて気分を害さない奴を指名しろ』
「気分を害さない…。
簡単に言えばあれだよね?
見てて癒される的な」

思い浮かべたのは狛村。
モフモフできたら最高の癒しになるはずだ。

『わかった』
「わかるの?!」

こいつ、心が読めるみたいだ。
世界に視線を戻せば、そこに立っていたのはドッペルゲンガーのあたしじゃなくて狛村だった。

「なるの早ッ!!!」
『ここはパラレルワールドの集束点だからな。
存在する人物なら、俺は誰にでもなれる』

パラレルワールドか。
前にTVでやってたような…。
確か、ある人が人生の分岐点のAを選んだ時、選ばれなかったハズのBを選んだ別の世界が存在する、ってヤツ。
でも、ちょっと待てよ。

「漫画のキャラがパラレルワールドに存在するの?」
『お前が知っている創作物も、全てパラレルワールドの部類に入る』
「え?」

コイツは一体なにを?
混乱するあたしをよそに、世界は話を進めた。

『お前が架空の物語だと信じているものは、全て実際に存在する。
まぁそれらは全部特殊だけどな』

それじゃあ、BLEACHも実際に存在してる世界ってこと?
架空の物語ってことは、ゲームや映画や漫画も全部?

『お前は考える前に人の話を聞け』
「……はい」

世界が放つ威圧感に、あたしは素直に頷いた。

『世界感が違うもの。
例えば魔法が存在する物語だが、あれは“神魂石”から生まれた世界だ』
「しんこんせき?
なにそのレアアイテムみたいなヤツ」
『分かってるじゃねェか。
“神魂石”は世界の源であり、人に宿ることで成長する。
成熟すればひとつの宇宙を生む、希有で神出鬼没なものだ。
その存在を知るのは俺ただ1人。
いや、今お前に話したから2人か』

話を聞いても大変さが伝わってこないのは、単にあたしが鈍いからだろうか?
なんかゲームの設定聞かされてるような気分なんだよね。

『おい鈍感女』
「ひどい!」
『思い出せ。
突然、特殊な力を使えたりしなかったか?』
「…あ!」

そういえば、使えた。
心当たりがありすぎる。

『それも“神魂石”の力だ。
新しい世界の種は、今はお前の中に宿ってるんだ』

許容範囲を越えると、どうやら感覚が麻痺するようだ。

「ふーん」

それだけしか言えなかった。
突然、金属のタライが頭を直撃した。

「いだーッ!!!!」
『ふざけた返答したら次はもっと大きくなるからな』
「ふざけてないのに…!」

突っ込み方がドリフを連想させる。
こいつ一度やってみたかったのでは?


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